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 タクシーは、さっきの場所にまだ待っていた。

「お帰り、お兄さん、ってアレ?」

 運転手はかなりぎょっとしている。

「お兄さん、機長さんだったの? それに弟さんて、あれ?」

「うんまあいろいろな事情でさ……」

 ここまで椎名さんにざっくりと説明を聞いていた玲子が、にっこりと運転手に挨拶した。

「お兄ちゃんが、お世話になりましたぁ。私、オトウトです」

 コロコロと笑っている。

「え?」

 運転手、更に固まってしまった。「って、アンタ」

「まあ、いろいろな事情なんですから」

 椎名さん、横にぺったりと貼り付いている玲子から懸命に身を守りながら

「駅まで、やってください」

 ようやく、帰り道にたどり着きましたとさ。


 新潟発19時23分に間に合った。

 21時20分、無事東京駅に到着。

 すでにMIROCのスタッフが丸の内側に車を回していた。

「カシワバラ・レイコさんですね」

 堅苦しい事務員風のおっさんだった。

 椎名さんのパイロット姿をちらりとみて、それでもこういう事には慣れているのか、顔色ひとつ変えず彼に告げた。

「本部の、ミズタニです。こちらの方に事情をお聞きするよう、本部指令室より言われましたので私がお連れします」

「事情を?」

「はい、テラモトは空港の保安警備に捕まり、その後県警が逮捕したそうです。指名手配がかかってましたが、ご存知ありませんでしたか?」

 お疲れさまでした、と今度は彼女をうながした。

「待って」

 車に乗りかけた玲子が、急にミズタニに何かを言ってこちらに走ってきた。

 ミズタニはそのまま、待っている。

 玲子は椎名さんの元まで走り寄ると、彼の腕をとって少し離れた場所まで連れて行った。

「何?」

「ちゃんと、お別れをしなくちゃ」

「お別れ?」

「レイコ、もうマンションには戻らない。事情聴取が終わったら、そのまま海外に出るわ」

 彼は「そう」と返事したきり、黙っていた。と、急に腕を引き寄せられて、唇を奪われた。

 長い、ながいキスだった。

 やめてくれ、息ができない!! 固まる椎名さんは心の中で絶叫。

 ようやく放してもらった。玲子は

「やっと、願いが叶ったわ。次に会ったら何しよう? リーダー」

 悪戯っぽくにっこり笑うと、あとは振り向かずに去っていった。

 甘い香りだけが残った。

 ちょうどその時、後ろから急に声をかけられた。

「あれ? オジサン?」

 ぱっとふり向くと、なんと港で別れたあの若造、コードネーム・リンクス。

「おじさん、仕事見つかったんだ? 警備会社? でも東京で?」

 どうも、連れと飲みに出かけてる最中らしい。後ろの数人の中に、またケインとラスコーを見つけた。

「あ」「誰? 知合いなの?」

 他のヤツらに聞かれている。

 何人かは玲子と赤いS3000を物珍しげに見送っていた。

「うん、ええと」(バカ黙れ)またまた必死の目線攻撃。

 ケインがやっと気づく、咳払いしてこう言った。

「仕事、ロシア系企業みたいだね、よかったよかった」

 ラスコーがまたぷっと吹き出した。


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