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 ブカブカの制服をたくしあげつつ(ベルトの穴も急いでひとつ開け直した)、滑走路へと小走りで近づく。

 中に乗り込むと照明は暗めで、アエロフロート機独特の、機械油とヘンな花から作られた香水が混ざったような匂いがした。

 腕の太いキャビンアテンダントが

「マックスは? アンタ誰?」

 と聞いてきたので英語で答える。

「彼は腹が痛くなった。代わりで来た、ドミトリー」

「だから機内食やめろって言ったのに」

 彼女はぶつぶつ言いながら奥に引っ込んだ。

 その態度からも、何となく全体やる気なしムード。

 ますますいい、好都合だ。

 副操縦士らしい男が、すでに操縦室に座っていた。こちらを振り向く前に

「マックスは腹が痛いってさ、オレはちょっと客室に用がある」

 返事を待たずに、客室の方に向かう。

 少し目も馴れてきて、周りをみる余裕もできた。

 が、急に不安が。

 ここまで来て、いなかったらどうする?

 焦りを表に出さないように、客室との仕切りをそっと開ける。


 いた!


 前の方、それでもファーストクラスらしい広めの座席に二人、玲子が窓際、その脇にぴったり貼りついているのはテラモトだった。

 玲子は窓の外を眺めながら細巻きの煙草をふかし、その横でテラモトはニヤつきながら少女マンガを読んでいた。

 他には誰も乗っていない、しばらく様子を見ていたが、手下は帰したらしい。

 彼は意を決して、つかつかと彼らの方に寄る。

「ああ、ブランデーが届いたのねん」

 ろくにこちらに目を上げず、テラモトが手を伸ばす。そこを、がっちりと掴んで後ろにひねりあげた。

「っ! 何すんのさ!」

「抵抗したら撃つぞ」

「アンタ……会計士!」

 しかしここで抵抗するテラモト。後ろに体を投げ出してくる。押されて反対側の座席に倒れる椎名さん。そこにテラモトが必死の形相でのしかかってきた。背もたれがなぜか、みんなばたばたと倒れてしまい、客室はフラットに。そこが二人の決戦場となった。

 機内が狭くて、どちらも決定的なパンチが繰り出せない。

 スタッフの女と副機長が駆け寄ったが、椎名さんが

「政府からの命令だ、手を出すな」

 と叫ぶと、呆然としながらも、遠巻きのまま動かなくなった。

 眼の端に、玲子の唖然とした表情が映った。テラモトはいったん起き上がって優勢になったが、かけてたダテ眼鏡が歪んでしまい、それを振り払おうと頭を振った。

 と、次の瞬間、あっけにとられた顔のまま、ぐずぐずと床に沈み込んだ。

 背後には、ワインボトルを握った玲子さんが息をはずませて仁王立ちになっていた。

「あさ、いやレイコさん」

「来て……くれたのね」

 玲子は固くかたく彼を抱きしめる。

 ロシア人たちがまばらな拍手をした。

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