第七話・咲の能力
御殿の中は静かだった。
凛と千代以外は。
「凛様ー!また仕事サボってましたねー!?書類が溜まってる!」
千代の手の中には、溢れ出しそうなほどの書類が積まれていた。
ちなみに神様の仕事は、人間を見ることらしい。
何の意味があるのかよく分からないが。
「ちょっとくらいイイじゃなぁーい。しかも博打で儲けたのよ!
ほら見てよぉ。凄いでしょっ。えへへ」
こちらも溢れ出しそうなほどの札束が、凛の手の中にあった。
子供みたいな無邪気な笑顔で笑う。
「そうですね〜すごいですね〜。でもまずは仕事でしょ〜?」
「はぃ・・。そうですね・・」
おそるべし。千代。
凛は渋々デスクワークを始めようとした。
「あ!この者たちに力を与えるのが先です!」
千代が思い出したように叫んだ。
俺たちはその程度の存在か?
帰るぞ、コラ。
「え?そーなの?メンドクサイな〜。あれ結構労力かかる・・」
「つべこべ言わずにやれ」
「はい・・・」
おい、仮にも神様じゃないのか?
上司じゃないのか?
それでよくクビにならないもんだ。
「じゃ、凛ちゃんいっきま〜す」
精神年齢も子供か。
見た目はいいかんじのお姉さんなのに。
「じゃぁまず女の子から!」
そう言って、咲を指差した。
反動で、狐の尻尾みたいな髪が揺れた。
「名前は?」
「咲・・・です」
「可愛い名前ねっ。じゃ、そのみつあみを解いて」
なんか訳の分からない事を言い出した。
「みつあみ解いてなんの意味があるんだよ」
呟いた柊に、千代の蹴りが直撃した。
ぎゃぁああと叫ぶ柊。
「なな何しやがる!」
「今の発言は凛様への侮辱だ!私が許さん!」
「オメーに言われたかねーんだよ!」
ぎゃぁぎゃぁと叫ぶ二人をよそに
力授之儀式は進められた。
「あの・・・。どうしても髪とらなきゃダメですか?
私、髪の事でいじめられた事あって・・・だから」
「つべこべ言わずに取りなさいよ」
さすが。この部下あっての上司だ。
咲は仕方なく、髪を解いた。
みつあみが消えて、ふわふわとカーブを描いた髪が、咲の腰のあたりで
揺れる。
「綺麗じゃん。な、麻貴」
「うん!とっても素敵だよ!咲ちゃんっ」
咲は驚いていたが、嬉しそうな笑顔をみせた。
「じゃ、いくぞ」
凛は咲の髪を掴んだ。
そしてその髪にかるくキスをする。
「!?」
すると、髪が青白く光を放ち、下から空気圧がふわっと押し寄せた。
「ひゃぁ!」
光と風は、消えた。
咲はぽかんと口を開けたままだ。
「はーい完成!おめでとーう。咲!」
何が完成なのかよく分からないまま
咲はお礼として頭を下げた。
「あぁ、そうだ。そのままで『神の矛先』って叫んでみな」
神の矛先?
神と髪を合わせたギャグか?と
柊はしらけた。
予想は外れた。ギャグなんかじゃなかった。
「神の矛先!」
ごあっと音を立てて、咲の髪が揺れると
髪がいろんな箇所で一纏まりになり、
床に穴を開けるような勢いで刺しこんだ。
その風圧で、書類や布団が宙を舞った。
窓に飾ってある飾り物も、りんりんと音を立ててくるくると回る。
やがて、風は止んだ。
「さ・・咲ちゃんすごぉい・・・」
「これが、咲の能力。髪の矛先じゃ」
おい、字違うぞ。
神の矛先だろ。
こうして、咲は攻撃能力を手に入れた。