第四十八話・全てが終わりを告げる。
勝利の女神は、どちらに微笑む事も無い。
実力まかせで玉砕覚悟で・・・・。
「やだぁああああーーー!いやぁああーー!」
臥せったままの二人。
叫び声が木霊する。
しゃきん・・・
鋭い剣の音がした。
煌々と輝く光の剣。間違いなく、立ち上がったのは冥堂だった。
脇腹から赤い血がぽたぽた流れ落ちる。
あまりの光景に、五大神も麻貴たちも動けなかった。
「・・・・・許さない・・・」
らんらんと、目だけが大きく輝く。
獲物はもう戦う力を持っていない。
仕留めるなら、今。
「え・・・?」
かきん・・・
鈍い剣の音が、震えるように鳴り響いた。
わなわなと震える足で、剣を軸に立っているその華奢な体は、今にも折れそうだ。
胸から血が、あふれ出す。
止まる事を知らない血は、何処へ流れ出たいのか。
「ひ・・らぎく・・・」
かすれた声は言葉にならない。
麻貴の、音魁の、咲の目に大粒の涙がたまっていく。
透明の雫は、落ちないように持ちこたえるだけで精一杯だった。
「しぶといね・・・」
「てめーこそ・・・」
柊は生きていた。
戦う力など残ってない、それでも立ち上がる。
手を、握りつぶすように握った。
なぜか鋭い痛みが走り、びくりと肩が揺れる。
「な・・・?」
しゃらん・・・
大きな赤い珠が揺れる。簪の、珠。
いつも千代が身に着けていた、千代の目にそっくりの、赤く大きな珠。
「俺に・・・貸してくれるのか・・・」
蛍光灯から青白く降り注がれた光に反射し、
それは鈍く素敵に光り輝いた。
「もうちょっとの辛抱な・・・千代ッ・・・」
風剣を地に投げ捨てた。
からんからーんと、乾いた音とともに風化していく。
「戦闘放棄・・・?武器が無くなったら戦えないよ」
俯いたまま、ピクリともしない柊。
それが、冥堂の理性を逆撫でする。
「何とかいいなよ・・・・」
うんともすんとも言わない柊は、そのかわり顔を上げた。
目に光が宿っている。
「その目・・・気に入らない!!!」
獣が吠えたくった。
光の剣は、もはや刹那にちりゆくものと化す。
「感情ぶっこわれてんじゃねーのかてめぇええーーー!」
ぐさぁああ!その簪を冥堂の胸につきたてた。
赤い鮮血が、あたりを汚した。彩った。
宙にキラキラと舞い、ばしゃばしゃとえげつない音を立てて堕ちゆく。
堕ちたのは、冥堂だった。
「く・・・・そ・・・・っ・・」
倒れた冥堂は、みるみるうちに消えていく。
脆かった。諸刃の剣。ガラスの体。
「せめて安らかに眠ってくれ・・・・」
暗闇はきっとなくなるだろう。
空はきっと晴れるだろう。
キミはきっと、僕らの元へ帰ってくるはずだ。
全てが終わりを告げる。
ぱりーんというガラス音と、ぱしゃぱしゃと流れる緑の液体が
終わりを、強く告げた。
「や・・・ったの・・・?」
その液体に身を任せ、少女の姿に変わった千代が、流れ出てくる。
柊よりちょっと大きいくらいの背。
凛が、それを受け止めた。
長い髪は、滴る雫で煌々と激しく煌いた。
「・・・っ」
目のやりどころに困る柊たち。
幼女でも直視できない体なのに、成長したその体を見れるわけが無い。
「なに固まってんの・・・。帰るわよ」
すっぽりと、顔に狐の面を被せた凛が、顎をしゃくって出口を示した。
そこには結界が解けて中に入り込んでいた銘銘が。
「銘銘!」
『無事だったようだな。すぐに雷雲布を用意するから待っていろ』
「あ・・あの・・あたいどうスレバ・・?」
仮面の下からでも分かる優しい微笑を、凛はリーメイに向けた。
「あたしが引き取ってあげる。一緒においで」
ぱぁああっと、歓喜に包まれたリーメイはうれし泣きなのか
頬に涙を伝わせた。
何度も何度も、しきりに頷く。
すべての終わりを告げたのは、死ねない少女。