第四十七話・激戦
滴る赤い雫は、音も立てずに飲み込まれた。
常人からみて少し色が薄い舌で、冥堂は滴る血を舐め取った。
「晩餐ねぇ・・」
優しく、黒く微笑む。
「キミは残念だね。きっと昨日食べたものが晩餐だよ。味わって食べたかい?」
「ざーんねん!俺は味わって食べるタイプじゃないんでね」
二人同時に動いた。
早くて、目で捉えられないくらい。
冥堂の剣は光となり、また現れた。
風結界を造っている暇は無い。賭けで行こう。一か八か。
「このさい凛でいいや・・・。神様ーー!俺に力をー!」
柊も、風の剣を創り出した。
「風剣!!」
一瞬、自分は死んだのかと思った。
だっておかしいもん。なんで・・・なんで・・
「なんで狐が出てきてんだぁアアア!?」
わらわらと白い物体が。
それは紛れもなく、狐だった。
柊を一瞥してからすべての狐が、冥堂に食らいつく。
「ひいらぎー!今のうちに風剣の強度をあげちゃいなさーい!」
聞き覚えのある声が。
ちょっとびっくりして振り向く。
「り・・・凛。と、その他の神々・・・」
「その他言うな!」
怒声が返ってきた。
「今はそんな事言ってらんない!私達も援護するから気を集中させて!そうすれば強度があがるから!」
凛がぴっと人差し指を冥堂に向けた。
目がきらーんと光り輝く。
「いっけー!」
「リーダー気取ってんじゃねぇー!」
湾が喚いた。
そして凛に治癒を命令し、自分は玉砕覚悟で突っ込んで、言った。
「冥堂!此処で憾みはらしてやらぁ!
柊の隣を、庵がするりと通り抜けていった。
まるで風が吹くように。まるで水が流れるように。
「お前に足りないもの・・・分かった」
「は?」
柊が間抜けな声をあげた。
そういえばいつか言われたっけなーくらいの事を思って、首をかしげた。
「集中力、だ」
学校でも家でもよく言われた。
お前は集中力がない、と。
反論するでもなく、あぁたしかになぁ・・と思いにふけった。
「いいか、気を固めるんだ。少しでいい。短時間で、より強度に。
きっとこれはお前向きの力の上げ方だ。やってみろ」
こくんと、柊は頷いた。
風剣を持っている手に、ぎゅっと力を込める。
「やってみる・・・!」
(うつけ、力が入りすぎじゃ)
「え?」
紛れもなく、千代の声。
千代のいるホルマリンの大瓶を見ても、変わった様子は無い。
(テレパシーと言えば分かるか?直接お前の脳髄に語りかけている)
「千代ッ・・・!無事なのか!?」
(ちょっと苦しいが、大丈夫じゃ・・・。わしも手伝うから、とっとと強度をあげるのじゃ)
ぶんぶんと頭を振って、もう一度握りなおした。
力は入れすぎずに、抜きすぎずに。
「うん!準備オッケー!」
(よし・・・やるぞ!)
すると、手にひんやりとぬるりとした、なんとも言えない感触が走った。
「ッ・・・」
(我慢しろ。気を込めろ)
また握りなおしをする。今度は何があっても離さない。
「冥堂!!」
「・・・・・久しぶり。旧名で呼ぶのは止したほうが良いのかな?」
光と光がぶつかり合う。
水と、炎と、土と、全てが冥堂を標的に飛び出してくる。
その周りには守護たちがいて、処罰の用意を整えていた。
そのとき。
「!!??」
全員の体に悪寒が走った。
それとともに、強い気。
「っこれ・・・・。柊か!?」
一斉に柊を見る。
透明の気が、柊を優しく強く包んでいた。
「ふん・・・」
ばっと、冥堂がすり抜けるように出て行った。
剣を構える。
「冥堂!」
一瞬の出来事に、追いつけない。
狐でも、神でも。
「死ねぇえええ!!」
かっと、柊が目を見開いた。
「いけぇええええーーーー!!!!!!」
立ったまま、二人は互いを刺した。
倒れもせず悲鳴も上げず苦しみもせず。
その時
どさ・・・
咲の顔が引きつり、震えた。
「ひいらぎぃいいいいいいーーーーーー!!」
その数秒後、冥堂も・・・。
ばた・・・・
互いに、地に臥せった。