第四十五話・幼女→少女
冥堂の顔が歪んだ。
「ワザと?」
柊の顔も一緒に歪んだ。
「あ?どーゆーことだ?」
「僕がそういう言葉、嫌いなの知ってて言ってんの・・・?」
一瞬言っている意味が分からなかったが、
ようやく理解して、掌にぽんと拳を置いたのも、つかの間。
「水獄」
冥堂が叫ぶ。
柊の手に、腕に、みるみるうちに水が巻きつき、飲み込んだ。
水の牢獄が完成している。
「どど・・・どうしてぇ!?水って・・・庵の技じゃないの!?」
麻貴が目を丸くして叫ぶ。
繰り出そうとしたチェーンリングを手で握り踏みとどまる。
「僕は土・水・火・風・光。すべての技を使えるのさ」
種を明かした冥堂の言葉に、咲が後ずさる。
しかし後ずさりなんかしても仕方ない。
「五月蠅いわねッ・・!柊を離しなさいよぉ!」
神の矛先が乱れ飛ぶ。
それはひとつも冥堂にあたらないし、かすりもしない。
「がぼぉお・・・」
息が出来ない。
息が・・・。
苦しい・・・!
はっと顔を上げた。
そこに映ったのは、ホルマリンの中にいる千代だった。
若干身長が伸びたように見えるが、それは今関係ない。
千代は自分よりずっと長く息の出来ない空間にいる。
それを助けてやるために来たのだ。
こんなところで、
こんなところで
「こんなところで死ねるかぁああああーー!!」
水の中でいるのであまり綺麗に聴こえなかったが、
咲と麻貴、音魁とリーメイには柊の気持ちが伝わった。
「くそ・・いけぇぇえ!」
音刃が、音魁の扇子から飛び出した。
水獄を真っ二つに切り、ばしゃああと水が吹き飛んだ。
「なに!?」
「ぷぁ・・・ありがとよ音魁ぃ!」
水で濡れた着物は、ずるりと重くなっていた。
だが、動くには問題ない。
「覚悟しやがれぇえええーー!」
風が巻き起こる。
怒りとともに。
気持ちとともに。
相殺されたその気持ちは、それくらいで緩むものではない。
「相打ち・・!」
空中で半回転し、ふたりは着地した。
そしてまた相手を目掛け走り出す。
「炎獄!」
「五十嵐!」
水蒸気と、火の粉と、風に舞ってあたりに散る。
「おらぁああ!」
ひゅん。
一発の風が冥堂の頬を掠った。
「・・・・」
赤い液体がぽたりと落ちる。
「相打ち・・?これで?・・・ふざけるなよ・・。お前如きが僕にかなうわけない!!!!!」
ごぼぉ・・・。
柊の耳に空気と水が混じった音が聞こえた。
「え?」
ごぼごぼごぼ!!
びきびきびき!!
「なぁ!!??」
千代の体が、みるみるうちに大きくなっていく。
そして最後には、チューブがぶつりと離れてしまった。
「ウソ・・」
それは、しいていうなら十七歳の少女だった。
幼女なんかじゃない、立派な少女。
「・・・面白いぃ・・・」
冥堂の言葉に、柊はもう一度大きく、拳を握り締めた。