第四十話・籠と鳥
四人とリーメイは歩き出した。
この地下の地形に詳しいリーメイが、四人を先導した。
「おい・・・おい柊!」
小声で、音魁が柊を呼び止める。
「なんだ?」
「あの女。ホントに入れてよかったのか?もしかしたら小夜の手下かもしれないぞ」
それはありうる事態だった。
もしかしたらリーメイは芝居をしているだけで、
本当は小夜の命令でこんな事をやっているのかもしれない。
でも
「大丈夫。きっと大丈夫」
音魁に言い聞かせるように、自分に言い聞かせるように、柊は断言した。
「それにさ、もしそんな事があったら、俺があの子を倒すから」
迷いは無い。
迷ってなんかいられない。
進まなくっちゃ。一歩でも先を目指して、光を目指して。
迷いは、無い。
鳥になりたいと思った。
そこはまるで籠だった。
大きな大きな、籠。
そこから出る事は許されず、結婚相手も決まっていて、
何一つ自由が得られない束縛の空間。
出たかった。
自由が欲しかった。
どう足掻いても、変わらない運命。
だけど
「一緒に来ませんか?お姫様」
その一言が、私の世界を、私を変えた。
此処から出たい。籠の外へ。自由になりたい。
あの青い空を優雅に、自由に弧を描いて飛ぶ、あの鳥のように。
あの人が全てを変えた。
あの人が私を助けてくれた。
だから私は決めたんだ。
あの人の、力になると・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はぁ・・・はぁッ・・・」
暗い畳の部屋に、荒く息をする声とぱたぱたと走る音が聞こえる。
襖を開けては閉め、暗証番号を打ち込んでいく。
「っく・・・はぁ・・・はぁぁ・・・」
肩を大きく上下させる。
片手には小さな少女を抱えて。
そのうち死んでしまうかと思ったが、あの髪の長い少年の治癒で
みるみるうちに傷口からの出血は止まった。
「っ・・・七・・・七・・一・・・」
最後の暗証番号を、正確に、いち早く打ち込む。
襖の音とは思えない「がしゃ」と金属が擦れるような音がして
その襖は開いた。
中はまるで実験室のようだった。
蛇やモルモットが宙ぶらりんに吊るされ、
こぽこぽと不思議な音をたてるガラス瓶の中には、小さな犬が押し込められていた。
「冥堂様!」
その奇怪な空間の中に、そいつはいた。
右目だけを、長い髪で覆い、ただただ黒い羽織を肩に適当にぶら下げていた。
「お帰り・・・小夜。どうだった」
「は・・はい。手に入れました・・・」
手を差し出す。
「輪廻の少女です」
その言葉を聴いた瞬間、冥堂の口が大きくにたっと笑った。
愛おしそうに、千代の髪を撫でる。
「会いたかったよ・・。僕の力は・・・きっとこの中に・・・・」
ばしゃん!
はねる水音がした。
千代が、大きな水槽に投げ入れられた、まさにその音だった。
うねうねと当てもなく中で彷徨っていた大量のチューブが
千代の体を支配しようと蠢き、吸盤のようにひっつく。
口には酸素マスクのようなものが宛がわれた。
「さぁ・・・僕のために・・・その神秘なる力を・・全て頂戴・・」




