第三十九話・心を保った傀儡の少女
小夜が大きく手を揺すった。
傀儡はみな後ずさりし、小夜も消えるように下がった。
と、思われた。
「!」
音魁の腕の中にいたはずの千代が忽然と消えている。
「千代・・・!?」
「この子は冥堂様の実験体にさせて貰うわね。無駄な努力、ごくろーさま」
その場から動けなくて悔しそうにしている柊たちを、
面白くて面白くて仕方ないという様子で、小夜はまた笑った。
「・・・・千代・・・・」
その場にがくりと崩れ落ちた。
何故こんな事になったのだ。
「千代ッ・・・・」
何故だ何故だ何故だ!?
柊は自分の頭を壁に打ち付けた。
額が割れる。血が流れる。
かまわない。
「千代ぉ・・・・・」
なくしたくなかった。
当然のむくいだ。
「何でだよ・・・・」
大切な仲間だったのに。
すべての始まりは、あいつからだったんだ。
泣き崩れる四人の傍に、傀儡がひとつ転がっていた。
それは先ほどの中国人系の少女だった。
≪泣かナイでクダサイ・・・・・・・・・・≫
「え?」
≪あナタ達の仲間は、まだ取リ戻せマス≫
「だ・・・誰?」
麻貴があたりを見回した。
目に留まったのは、転がっている傀儡。
「キミ・・・・?」
≪ハイ。あたいはリーメイ≫
少女は答えを返してきた。
「キミは・・・・小夜の部下じゃないの・・・?」
≪イイエ。強制デス。でもあたいは・・・自分の心を信じてタカラ・・≫
「そっか、強いんだね」
リーメイの表情は変わらないが、声が嬉しそうに笑った。
≪滅相もナイ。・・そうだ、あたいの首の後ろの金具、トッテいただけマスカ?≫
麻貴は恐る恐るリーメイに近づき、
首の後ろにあった金具を抜き取った。
とたんに、命が吹き込まれたようにリーメイが起き上がった。
「ありがとうごぜぇマス!これであたいも自由でス!」
起き上がったリーメイは、何度も何度も麻貴に頭を下げた。
それを見ていた柊たちが、集まる。
「お礼に、アナタたちの仲間サン助けます。協力させてクダサイ!」
頭の髪飾りが、しゃらりとなった。
その音で、千代の簪を思い出した。
「わかった。一緒に千代を助けてくれるか・・・?」
「もちろんでごぜぇマスッ!!!」
リーメイが、日本刀を持ち直し、笑った。