第三十五話・闇ルートへの入り口
雷雲布は思ったよりふわふわしていたが
ずぼりと落ちるような欠陥品でもなかった。
「私雲に乗るのが夢だったのーっ」
なんとも子供染みた咲の夢だが
柊はあえてつっこまなかった。
前をいく煩は特徴のある少し長めの耳を頼りに
輪廻の森を探していた。
『あったか?』
「うーん」
きょろきょろとあたりを見回す。
ただっぴろい森ばかりで、柊たちには見分けが付かない。
御殿はもう見えなくなっている。
「あーっ!あったあったありました!」
突然に煩が叫ぶ。
その指差す方向には、やっぱりただの森。
「ただの森ではないのか?」
「やだ音魁。分かんないの?此処・・「此処、妖気が激しい・・・!!」
音魁は凛に訊ねたが、その言葉をさえぎり
柊が大声をあげた。
此処、おかしい。
こんなところに居られない。
飲み込まれる。
飲み込まれそうだ。
この汚い気に。
「でも柊、凄いわね。気づくの早い」
凛が惜しみない拍手を送る。
『我は此処には入れん。こんな主を送り出すのは心配だが・・・』
輪廻の森の真上にたって、大きな城を見下ろしていた銘銘が
心配そうに呟いた。
天守閣に聳える、悪魔の姿を模った象が
金箔の所為か、まぶしく見える。
「もう!銘銘は心配性だなっ!」
『我の力はこの中では一切つかえん。だからせめて・・・』
銘銘は、躊躇うようにして、煩を自分の背からどけ、
雷雲布へと移した。
『この邪魔な外部だけでも、壊しておく!!!』
稲妻が走った。
縦横無尽に城を目掛け、轟きながら雷鳴を鳴らす。
咲が今度は、隣に居た凛に抱きついた。
『フン。こんなものか。では気をつけるのだぞ、主』
最後の最後まで煩を心配して、銘銘は闇へと溶けた。
「・・ありがと。銘銘。絶対無事で帰ってくるから、心配しないで・・・」
心配性のキミを、困らせるわけにはいかないから・・・・。
外壁も、天守閣も壊れたが
中から何一つ見つからない。
「こりゃ・・・地下だな」
湾がめんどくさそうに息を吐く。
地に降り立った一同は、隅々まで中を調べたが、何も無かった。
「地下への入り口を、探さなければいけないという事ですか?」
湾の傍らにいた蘭が散らばった破片を見つめ、踏み潰しながら言った。
破片はもろく、すぐにぼろぼろになった。
(・・・これは、ダミーか?・・・)
蘭が他のものも踏んでみる。
何もかもがもろかった。
「湾様。これはダミーでは無いでしょうか?ほら」
足元に崩れた破片をかき集め、蘭が掌に乗せて
みんなに見えるように持ち上げる。
「そうだな、とすると「地下への入り口はわかってるわ!」
突然凛が口を開いた。
ちょっとかっこつけてもたれ掛かっている。
それは、大きな鉄扉だった。
「これか?」
斬が鉄扉を見る。
「そーよ!だってほら、階段があるもの」
ぎぎぎぎと古い音で鉄扉が開く。
中には、無駄に長い階段があった。
「行くしかねーな」
一同は、暗闇の中へ一歩ずつ降りていった。