第三十三話・操り人形
「結局!式狐は役に立たなかったじゃねーか!
しかも俺らを攻撃してくるしッ!」
柊はぼてっと床に寝転んだ。
ちょっと久しぶりに思える赤い絨毯。気持ちいい。
「あ〜ら、油断は禁物よ。攻撃しないなんて言ってないしぃ〜」
なんとも憎たらしい声で、凛が反撃した。
ぬぐぐぐっとくぐもった声が、柊の喉から聞こえる。
「にしても、よく凛様にそんな口利けるわねぇ」
部屋の隅に、守護組は固まって話をしながら
時折柊を見ていった。
「ほんとじゃ。成長しなくてわしも困っておるのじゃ」
「凛様ってそんなに凄いの?」
輪の中に入っていた麻貴がふと思って聞く。
隣にいた咲も、確かに、と頷いた。
「凄いのって・・・凄いにきまってんじゃない!」
蔭が声を荒げる。
「いーい?ここに居る五大神は、神々の主神なの!
頂点に立ってんの!分かる?」
「う・・・・・うん」
麻貴が、蔭の迫力にびっくりして、声を小さくする。
「蔭。声が大きいぞ」
「五月蝿いわね。仕方ないじゃない」
床に座ったまま、壁にもたれかかっている秦を見る。
見るというより、睨んだ。
「凄いのは分かったけど、なんか凛さんじゃ想像できない・・」
咲が凛を見た。
柊と口げんかをして、ついにその辺にあったクッションまでもを
投げている。
咲はちょっと苦笑いした。
「じゃあ斬様ならわかるでしょう?」
その苦笑いの咲に、蔭は胸に手を当てて自慢するように
誇らしげに言った。
「はぁ!?絶対庵様だろ!?」
「違う違う!湾様だっ!」
「やっぱ満様でしょ〜。ここは」
わんわんぎゃんぎゃんと言い始めたので
咲と麻貴は顔を合わせて、また苦笑いをした。
「というか、その、小夜とかいうお姫様を助けなくていいのか?」
凛の傍で、時折柊vs凛の被害を受けながら、音魁は問うた。
「あっ!忘れてた!」
オイ!お前大丈夫か!?
「よっし!水晶集まったからもう出発しちゃう!」
「ちょちょちょっと待て!いきなり!?もう!?そんなのあり」
「あり。なんでもあり。だって小説だもん。漫画じゃないもん」
どういう理屈だよ!
こんなギャグ染みた会話を、遠くから庵が見ていた。
「くだらない・・・」
早く行かなければ。
何か嫌な予感がする。
何か、取り返しの付かない事が起こりそうな気がする・・・・・。
周りを黒雲で囲まれた、ひとつの城。
なかはひっそりと静かだった。
ひとつのすすり泣きが響く以外は。
「出して・・・出して・・・此処から・・・出してよ・・・」
大きな牢の中ですすり泣く少女。
「怖い・・・怖いよ・・。助けて・・助けて・・・」
肩を震わせて泣く少女が入っている牢を、
豚の形をした妖が壊さんばかりに叩く。
「うるせぇな!黙ってろ!」
「ひぃっ・・・・」
少女はそいつから離れるように、後ずさりする。
「そんなに乱暴に扱っちゃいけないよ」
そんな優しい言葉が少女の耳に唐突に入り込んできた。
その瞬間、妖は肉の塊に変化し
どしゃどしゃと嫌な音を立てて、その場に落ちた。
「あ・・・あぁ・・・」
がたがたと手が震えて声も出ない。
「ゴメンね。怖い思いさせたね」
妖を殺した男−冥堂−は、牢の中の少女−小夜−に小さく語りかけた。
「嫌ッ!来ないで!いやぁあ!ひぃぃっ・・・!」
小夜は自分の頭の上におかれた冥堂の手を必死で振り払おうとする。
精神はもうなくなったかのように、闇雲に手と頭を振る。
顔はやせこけ、骨と皮しかないような手。
着ていた綺麗な着物は、ホコリにまみれて、高価なものとは思えない。
「嫌ァ・・もう嫌・・帰して・・帰りたい・・」
「ダメだよ。全く、お姫様ってのはどうしてこう我が儘なのかな・・?」
そういって、小夜の小さな頭を鷲づかみにし、持ち上げた。
爪と手がギリギリと食い込む。
頭がそのまま潰されそうになる。
「あがぁ・・・!・・ご・・ゴメンなさいっ・・許してぇ・・」
「そうだよ。キミは僕に逆らっちゃいけない」
「はい・・・はい・・・っ・・。ゴメンなさい、ゴメンなさい」
何かの暗示にかけられたように、少女は必死で謝る。
「怖がらなくていい。キミが恐れる事は何も無い」
「は・・・・・い」
壊れかけた操り人形のような少女を
柊達は救えるのか・・・・・・・・