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水晶物語  作者: 寿々
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第三十二話・「修行、終了!」

四ルートに分かれた守護組は、それぞれの道を走っていた。


「なんもない・・つまんねーの」

蘭は道無き道をとことこと前に進み

どうにか水晶と出口を探していた。

蘭は手に聞機を持って、口に近づけた。

「このまま行っても行き止まりかもしれない」

『かもしれないでしょ。とにかく行き止まりまで行ってちょうだい』

聞機の中からやけに冷ややかな蔭の声が聞こえた。

それがそこら中に響く。

「・・・わかったよっ」

聞機をフトコロに閉まって

再び歩き出そうとしたとき

頭上に、何かが飛んできた。

「きゃあっ!」

びっくりして、思わずカン高い声を上げてしまった。

それは、小さな蝙蝠コウモリだった。

「びび・・・びっくりしたっ・・・」

頭を抑えて、自分の頭上を馬鹿にしたように飛ぶ蝙蝠を眺めていたが

自分の女みたいな甲高い声に、蘭は顔を赤くした。

「俺は男なんだから!こんなことでいちいちビビッてらんねーの!」

小声でそう自分に言い聞かせ

気を取り直してまた前に進み始めた。

(聞機の電波受信棒立てとかなくてよかった・・。誰も聞いてないよな・・?)


「おらぁ!」

こっちは綺麗に舗装された洞窟。

その中を、秦が駆け抜けていく。

たくさんの妖に、銀色に光る小太刀を振り回し

一匹ずつ、正確に狩っていく。

「くっそー!無駄に妖多いんだっての!」

お世辞でも広いとは言えない洞窟の中に

嫌というほど妖がいたら、誰だって愚痴くらい零すだろう。

いないもいないで、考え物かもしれないが。

「おい煩!そっちどうだ!?」

耳に当てた聞機から声が返ってくる。

『え?特に〜。なんも無しだよ。楽チン〜』

ずいぶんと飄々(ヒョウヒョウ)とした煩の声に

思わず聞機を壊したくなった。

「ちぃっ!煩!出口見えたのか?」

『あ・・・それはまだ。でもずっと先に明るい光がちょこっとみえ・・』

「それだ!早く走れ!水晶があるかもしれねぇ!急げ」

『え〜・・・』

「とっとといけっ!!!!」

煩のたらたらぶりに、秦は心なしか大きな声が出た。

聞機の中から「うるさいよぉ〜」と帰ってくる。

が、秦はそれを無視して、ぶちんと電波受信棒をきった。

洞窟の中に、駆けていく足音と影だけが残り、映った。


「まったくぅ・・。乱暴だなぁ。秦は」

怒り気味に命令された煩は、仕方なく駆け足で走り出した。

「此処走りにくいんだもん・・・」

この洞窟は全てが階段になっていて

ずっと走り続けているのは、体力的にきつい。

「秦の鬼ー。悪魔ー。冷血ー。あんぽんたーん。えーっと・・」

思いつく悪口を立て続けに並べたが

秦からの返事が無いので、飽きてやめた。

いつもならすぐに反抗してくるくせに。

きっと今は聞機の電波受信棒を切っちゃったんだろう。

そんな事を思いながらとてとてと歩いていると

光が目の前に来た。

「え・・?わっ!やった!で・・でも疲れたぁ・・。

やっぱ悪口言ってたのが体力消費しちゃったんかな・・」

煩はその場で、がくりと膝から落ちた。

階段に手をつき、肩を上下させ

荒い呼吸を繰り返す。

「はぁ・・・はぁ・・・っ。・・・?」

煩は目の前の光景に目を見開いた。

「嘘でしょ・・・・!?ちょっ・・蘭!秦!蔭!聴こえる・・・!?」



「聴こえるわよ。大声出さないで」

煩の問いに真っ先に応えたのが蔭だった。

長い髪は左右にはたはたと素敵に揺れ

かつんかつんと音を響かせて、歩いていた。

「ねぇ。他の二人には繋がんないの?」

『うん!出てくれたの蔭だけ』

「ったく・・・あいつら受信棒きりやがったな」

ちっと、蔭が短く舌打ちをする。

『そんな事より大変なの!あのね・・うわっ』

ザザザッ!ガガガッ!

おかしな機械音がして、煩の声がぶつりと途絶えた。

「ちょ・・煩!大丈夫なの!?返事しなさい!煩っ」

『その声・・・蔭だな?』

蔭は帰ってきた声に目を見開いた。

その声は、他の誰でもない、自分の上官の声だった。

「ざ・・・・斬様・・・!?どうしてっ・・?」

『俺もわかんねぇんだ。こいつが穴から転がり出てきやがった』

蔭の顔が青ざめるように、心配の色に変わる。

自分の上官は人情が全くといっていいほど無い。

其処にいるのがもし煩だけだったら、煩は妖と同等に

間違いなく殺されるだろう。

蔭は聞機を耳に押し付け固定し、ものすごいスピードで走り出した。

『・・おい蔭。聞いてんのか?』

「も・・もうしわけありません!あの・・お一人なのですか・・?」

『なわけねぇだろ。他のやつらもいる』

ほっと安堵アンドの表情を浮かべ

蔭は、速度を少し緩めた。

『とにかく、てめぇも走れ。穴は四つだ。道なりに行きゃ、出れるはずだ』

「はい!」

そこで斬の声も切れた。

蔭はこのことを報告しようと、秦と蘭の聞機あてに話しかけるが

応えは帰ってこなかった。

「くそっ・・・。仕方ない・・私だけでもこのままいかなくちゃ」

此処に長時間いるのは危険だ。

本能がそう伝えてる。

鈍く頭が回転している中で、一点の光が見えた。

あれは・・・きっと穴だ。

蔭は両手を大きく広げ、まるでツバサで飛ぶかのように

地を蹴り、進んだ。

「斬様ッ!」

暗闇から出で、真っ先に斬の姿を見つけると

其処に降り立つかのように、足元に駆け寄った。

片方の手は地に着け、もう片方の手は、

立てた片方の膝の上に乗せる。

もう片方の膝は、手と同様地に着けた。

「おそかったじゃねぇか」

「申し訳ありません!お許しを」

蔭はコウベを深く垂れた。

「ふん。まぁいい。水晶も手に入ったしな。

あとの奴らが来たらかえんぞ」

「はっ!」



そして十分後、無表情で入ってきた秦が驚きの表情に顔を変え

すぐさま庵の元へ駆け寄った。

そのすぐ後に、蘭もやってきて

「え?え?なんでなんで?全員いるの?」

と、ほんとに困り果てた顔を見せた。


「おっかえりぃっ!」

帰りは、天心甘栗を頬いっぱいに詰め込んだ

なんとも言いようのない凛がむかえでた。

「大変だった?」

「まぁな。ところであいつらは?」

庵が自分の髪を手ですきながら言う。

「まーだ!でも、もうすぐ!」



凛の言葉は嘘ではなかった。



「修行、終了!」


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