第二話・真実はいつでも残酷
おもいっきり蹴り飛ばされた柊と
おもいっきり投げ飛ばされた麻貴は
二人同時に起き上がった。この場合、柊のほうが
長く廊下にへばりついていた事になる。という事は
柊のほうが長くみっともない姿をさらしていた訳である。
「みつあみメガネって・・・、清楚可憐な文学少女だろ・・?」
「今の咲ちゃんじゃ似ても似つかないね。てゆーか反対だね」
ばふばふと自分の制服をはたく。
黒い制服なのにところどころ白っぽくなってしまっている。
外れたボタンをはめ直し、顔を上げたその先に
千代がいた。
「うわぁぁああああああ!?」
「うきゃああぁぁぁあ!!」
「人を化け物扱いするなーー!!ま、阿呆の人間からみたら化け物かの」
なぜか千代がいた。
浮いているし。
やっぱりコイツは人間じゃない。
「おいおい。なにでかい声で叫んでんだよー」
クラスの何人かが二人を笑った。
(・・・・そっか、こいつら見えないのか・・)
麻貴がみんなの笑いの的になっている間に
柊は千代に「いいか絶対厄介事はおこすな」
と念に念を押した。
「なんで来たんだよー」
昼休みの屋上。だれもいない。
かわりに此処は景色がいい。
「お前らが話の途中に駆け出すから追っかけてきたんじゃ」
「ねー、君ほんとなんなの〜?」
「だから!稲荷神の遣い魔って言っているだろうが!」
がっと口を開いて千代は叫んだ。
千代の迫力のあまりに、口から唾がとんだ。
見事、麻貴の目に直撃した。
「だから!その遣い魔!遣い魔って何!?」
神様のお傍にいるのは天使じゃないのか。
柊はなんとしても納得できない。
「そうか、お前らの脳味噌じゃ理解できんわな」
柊と麻貴にかるいショックを与えたところで
千代は自分の扇子を二人の目の前に差し出した。
それには、墨で書かれた文字と絵が、ぼんやりと浮かんでいた。
「世界には沢山の神々がいる。そのうちの一つが稲荷神じゃ。
此処に出ているのは中心的な五大神じゃ。ほれ、此処見てみい。
ちゃぁんと載っとるじゃろ。このお方じゃ」
狐の面を被り、肩でもたれた髪は、後ろで二つに束ねてある。
天女に近い姿をしていた。
「で、稲荷神様のとなり。この方が水神様。こちらが炎神様。
それでこの方が荒神様。あちらが光神様」
水神様は、髪の長い冷たい表情の長身の男。蓬莱の玉の枝、という
話に出てくる金・銀・瑠璃色の水を体に纏っている。
炎神様は、水神と対照的なバサバサとした髪で
赤い布の服を着ている。
荒神様は、顔が見えないフードコートみたいな着物を着ていて、
口元がにたぁっと笑っている。
光神様は、菩薩様みたいな明るい笑顔の大男で、
お釈迦様が纏うような着物で身を包んでいる。
「ほー、すげーなぁ・・・・・」
「女の神様は稲荷神様だけなんだね」
麻貴が思わず呟いたとき、千代が目を輝かせてずぃいっと近寄ってきた。
「そーなのだ!聞いて驚け!稲荷神様は今までずっと男ばかりだった
五大神の中にはじめて女として入ったんだぞ!」
余談だが、千代の稲荷神様トークは優に一時間続いた。
「先生。柊くんと麻貴くんがいませーん」
こちらも余談だが、授業はとっくのとっくに始まっていたのだ。
教室はざわざわとざわついている。
「あー静かに。学級委員。二人を探してきて」
「(げっ・・)はい、先生」
学級委員、という理由で教室から追い出されるように
二人を探すはめになった咲は、まっすぐ屋上にむかった。
(あのクソども〜〜!!見つけたらぼっこぼこにしてやらぁ!)
そんなおっかない事を考えながら、咲の足取りは
確実に屋上に向かっていた。
そして、最後の階段を上りきったとき。
「!!??」
朝見たあの少女が、二人と一緒にいた。
何事もないかのように話している。
「あ・・あぁ・・!」
「でもさ、俺たち、稲荷神と関係ないじゃん。もぅ解放してよ」
千代は目を剥いた。
「馬鹿いうな!お前たちは私が見えたという時点で
神々の守護者なのだ!!」
二人は絶句した。
そして、それを聞いていた咲も。