第二十六話・水晶をみつけだせ
暗いくらい空間の中を、ボクらは旅をしている。
「なぁ千代。此処でずっと敵ぶったおせばいいのか?」
そろそろ同じことに飽きてきた柊は、親指ほどの小鬼を
足で造作なく踏み潰して、言った。
「そんな訳なかろう。きっと此処の何処かにある水晶を手にしなければ」
後ろから襲い掛かってきた妖めがけて
千代は自分の簪を突き刺した。
悲鳴とともに妖が消える。
「何処かって・・・・こんなとこ右も左も砂漠じゃねーか!」
思わず柊は大声で激怒してしまった。
此処の何処かって、この無限のような空間を
ふらふら水晶を求めて彷徨えってか?冗談じゃない。ふざけるな。
「それに喉が渇いた!」
「あの向こうに湖がある。ついでにこの砂漠の空間で水晶を見つけないと
わしらは一生出てこれんぞ」
賢明な判断だ。
音魁はそう思って、湖めがけて歩き出した。
「まって!音魁どこいくの?」
「千代の言葉は合っている。まずはあの湖を目指す」
ずんずん歩いていく音魁に遅れを取らないように
咲と麻貴も歩き出した。
その音魁の後姿が、柊にはやけに大きく見えた。
その頃、「血雨」では、煩の手当てが終わったところだった。
「よし。オッケー。大丈夫だぜ。煩!」
「ありがとう。蘭。さすが女の子だね」
「女じゃないっ!バカ煩っ!!」
ぱしんと、蘭が煩をはたく。
でも、蘭の顔はちょっと赤くなっている。
照れている証拠だ。
なんともほほえましい光景である。
その様子を、蔭は楽しそうに見守った。
「はいはい。痴話喧嘩はそこまで」
「こんな時に夫婦漫才しなくてもいいだろ」
その言葉に反応して、二人一緒に秦をはたく。
ぱしん、なんていう音じゃなく、ホントに痛そうなばしーんという
音だった。
「何すんだコラァ!つーかなんで蔭は叩かねーんだよ!」
「「蔭は女の子じゃん」」
「お前だって女じゃねーか。変人蘭」
もういちど、渇いた音が響いた。
「もういいでしょ。とにかく、今は水晶を見つけるわよ」
「そうだね。怪しいのは・・・あの寂れた宮殿かな」
「前の修行もあんな感じの所だったな。ん?なんで倒れてるんだ?秦」
「てめぇ・・・もう自分がさっきやった事忘れやがって・・。殺してやりたい」
なんともにぎやかな四人組だった。
同刻。「死魂」の四人組は
水晶のために戦っていた。
「うぉおおおおおお!!!」
戦いの音しか聞こえない。
ローマの宮殿のような所。秦たちの所みたいに寂れているんじゃなくて
今でも誰か住んでいるんじゃないか、と思えるくらい綺麗な宮殿。
だから、怖さが増す。
ところどころに飾られた鎧が、大きな剣を持って
襲い掛かってくる。
「おらぁあああ!」
掌を合掌させて、それから片方を前にだす。
すると、その手から大きな焔が溢れ出し、周りを焼き尽くした。
これは、湾にしかできない特別な技。
「おい湾。もう少し焔を小さくしろ。水が出せないだろ」
「だーかーら!これが限界ッ!ようは倒せばいいんだよ」
この四人は、それぞれがそれぞれに因果関係を持っている。
チームワークはいいほうではない。
再び、柊たちにもどる。
遠くに見えた湖は意外と近場で、この間妖にも合わなかった。
「ラッキーだね」
「だねっ」
顔をあわせてくすくす笑う咲と麻貴。いつも楽しそうである。
「そういえば、千代ちゃんはさっきから持ってるのは何?」
千代の掌には溢れ返るほどの飴玉があった。
「千代!抜け駆けは許さねぇ!俺にもよこせっ!」
「騒がなくてもやるつもりじゃ。この飴玉はな、
死んだものの魂を収めた飴玉じゃ。これで我々は生きている。
味は・・・甘い。ハズレは辛いがな」
柊は、出した手を引っ込めた。
死んだものの魂?
これで我々は生きている?
「・・・・・酒とか、甘栗とかじゃねーの・・・・?」
「あぁ、アレの元はこれじゃな」
不思議な飴玉は、みんなの掌に一つずつ落とされた。
淡い水色、透き通るようだった。




