第二十五話・それぞれ
同刻。煉獄凶第九十一「鬼火」。
「いやぁああああああーーーーっ!」
相変わらず響くのは咲の大きな絶叫。
そしてどしゃどしゃという、死の音。
「おい咲。もうちょっとましな攻撃の仕方をしろ」
「だって・・。千代ちゃん見てよ!あの気色悪い鬼っ」
涙目で、咲は一匹の鬼を指差す。
片方の目が、どろっと落ちていて
原型すら保てていない、確かに気色の悪い鬼。
が、咲めがけて走ってくる。
「こっちくんなぁぁぁぁああああ!!!!」
咲の髪が乱れるように、鬼へ飛んでいき、鬼を真っ二つに割る。
その様子を、柊と麻貴と音魁はぼーっと眺めていた。
「すげぇな・・・」
「ある意味な」
「咲ちゃん、もう技の名前言わずに発動出来るんだぁ。すっごーい」
麻貴ひとり、手を叩いて本気で凄いと思っている。
と、柊の横を何かが通った。
「来たっ!」
鬼・・・・じゃない。
何に例えればよいのかいまいちよく分からない
まぁ、一言で言えば妖。
「なんだこれは。きもちわり・・「柊くんっ!ここはボクにやらせてっ!」
ばっと、柊の前に麻貴が飛び込んだ。
麻貴の見据えた目がきらっと光る。
「リウーっ!」
ぶんっと右手を上げる。上げた反動で、龍の目が紅く光る。
「敵はあいつだよ!リウっ」
『承知』
どうやら、リウというのは、その龍の名前らしい。
リウは、口を開けると、その妖を頭からばりばりと食した。
妖は咲のような絶叫を上げ、消えた。
「リウ。ありがと〜ね」
『これくらい造作もないこと』
麻貴がやった〜っと飛び跳ねて、嬉しそうに戻ってきた。
「凄かったでしょ?」
「え・・あ、うん」
曖昧に、柊は答えた
が、柊も音魁も聞きたい事は一つ。
「何で名前がリウなの?」
麻貴がにぱっと笑った。
「リウは龍じゃん?でも、「リュウ」だったら味気ないじゃん?
だから「ュ」をとって、「リウ」。可愛いでしょ?」
本人はとても気に入っているみたいだが
こちら側からすれば、よく分からない。
同刻。「死魂」
ただひたすら戦うのみ。
目の前にいる敵を叩きのめす。
肉をえぐり、敵の鮮血をこの身に浴び
自分は強くなるのだ、と願い、前に進む。
「・・・・なぁ満。おかしくないか」
「・・・確かに。いくら戦っても、敵が減らない。数に限りはあるはずだ」
そうだ。
鬼や妖だって、永久に生きれるわけではない。
そんなに数が増えるわけでもない。
なのに、多すぎる。
同刻。「血雨」
「つ・・・疲れた」
煩ががくりと倒れる。
「煩っ!大丈夫か」
敵をぶっ飛ばした蘭が、急いで駆けつける。
敵の攻撃を受けたからなのか、青黒いアザ。
「治療してやる。休め」
自分の身長と変わらない煩を、片手で担ごうとした。
でも、心がいくら男でも体は女。
男の体を女が片手で担げるわけがない。
「貸せ。俺が持ってやる」
ぱっと手を貸したのは、秦だった。
蘭は突然の行動に驚き、立ちすくんでいる。
「んだよ」
「いや・・・。あのすかしてて、いつもなんかムカつくような物言いで
気分の悪くなるようなやつだったお前が、まさかこんな事するとは思わなくて」
「てめぇ、なぶり殺されてぇのか?」
相変わらず目は冷たい。
が、何かが変わった気がする。
蔭は、秦の後姿を見て、くすっと笑った。
「何てめぇも笑ってんだよ」
「べつに」
何が変わったのだろう?
この修行をしてるという事は、もうすぐ敵の陣地へ乗り込むという事。
ゲームが、始まるという事。
命がけのゲーム。
終わったら、私も何か、変わるかな?
終わったら、あいつの変わったトコ、分かるかなぁ?