第二十三話・行こ
煉獄凶。
この神殿の地下にある、神々の修行場。
此処で修行をして、生きて帰ってこれる確率はよくて三十%。
毎回毎回、何人もの神が命を落としている。
その死体を片付けようとする者が誰もいないので、死体は風化し、砂となり
どこかへ飛んでいってしまう。
だが、風化するのに恐ろしいほどの時間がかかるので
煉獄凶は死体の山となっている。
焔が渦巻き、鬼がひっそりと腹をすかせて獲物を待っている。
そこはまるで地獄絵のような場所である。
「だから煉獄凶なんだ。怖いところだね」
話を聞き終えた麻貴は、両手を握り締め、秦と目線をあわせなかった。
何か悪いことを聞いたのかもしれない。
こんな記憶を持っているのなら、誰だって思い出したくないはずだ。
なのに、無理に聞き出してしまったような気がする。
「なんか、ゴメンね。嫌なこと思い出させちゃって」
秦は目を丸くしたが、すぐにフンッと顔を逸らした。
周りの空気はどよっと重くなった。
その空気を知ってか知らずか、るんるん気分の凛が
スキップでやってきて
「煉獄凶で修行するから。これもう決定事項だからっ!
異議があるやつは首を真っ二つに切るから」
と、恐ろしいことを笑いながら言った。
お前がやらないからって、人の命を無駄にするような事言いやがって。
ってゆーか五大神たちは反論しなかったの?
「うん!みぃーんなやる気満々だったよぉ?」
麻貴の心の問いに、凛は嘘っぱちを並べて答えた。
遠くで、湾と満がぶんぶんと首と手を振っているのが見えた。
「それに、あたしの式狐つけたげるし」
凛は、つま先を立てて舞うと、幻術のような狐がわらわらっと現れた。
二度目だが、これは何度見ても見慣れない。
柊たちも部屋に戻ってきた。
すると、その柊たちの体にするするっと狐が巻きついてきた。
「わ!?」
そして、体に入り込んだ様に、消えた。
それは柊たちだけではなく、秦や庵のような神もそうだった。
「あたしの力は消えちゃったけど、治癒ならできるよ〜ん」
かかかっと、下品に凛は笑った。
千代は、この凛の笑い方が、なにより嫌いなのだが
あえて我慢した。
この狐を、ひとりだけ拒んだものがいた。
斬だった。
「俺はいらねぇ。こんなの邪魔になるだけだ」
凛はむくれた。
「いいわよべつに。あんたなんかこっちから願い下げだしーっ!」
べぇーっと赤い舌をだして、凛も抵抗した。
そして鈍く光る鍵を持ち直すと
「行こ?」
とだけ言って、人質のように柊を引っ張り出した。
地獄へ、向かうことになった。