第二十二話・地獄が再び
「よし!わたし絶対あの馬鹿倒す!」
咲がそう宣言したのを、中から湾は見ていた。
「・・早めに倒したほうがよくね?」
呟いたとたん、庵が湾を睨む。
「じゃぁなんでさっき殺らせてくれなかった!?」
「それはお前が死ぬかも知れないからだ!」
腹の虫が治まらない庵は、部屋から出て行こうとした。
「待って。庵。あたし天才!いい事思いついちゃったぁ」
出て行こうとした庵を、凛が引き止める。
はっきり言って、今の言葉はうっとおしい以外の何でもない。
「あのね!地下に修行用の場所があるでしょ?」
人差し指を立てて、いかにも「ひらめいちゃった!」オーラを出して
凛は無邪気に言った。
「でね、そこの・・「凛!それはダメだ!」
慌てて、満が凛の言葉をさえぎる。
凛は膨れっ面になった。
どうみても可愛くはないのだが。
「満!なんでダメなのよぉ〜っ!」
「危険すぎる!現にお前はあれで死にそうになっただろ!?」
「それは昔の話でしょ?みんな昔より強くなったじゃない?
あれくらいできると思うわ?柊たちだって大丈夫よ!」
「それは余計ダメだ!あいつらは戦ったこともない子供だぞ!?」
「大丈夫ったら大丈夫!天心甘栗五十袋賭けるっ!」
「あのなぁ・・・・っ」
満の忠告も聞かずに、凛は大きな鍵を取り出した。
金色の大きな鍵。光に当たって、それが鈍く光る。
それを見て、斬だけがにたっと哂った。
その頃、咲の迫力にやりきれなくなった蔭は
ひとり部屋の中に戻ろうとしていた。
(なんであんなに騒げるんだろ・・。私は無理だわ)
部屋に戻ったとき、一番最初に目に付いたのが
斬の不適な笑みだった。
(・・・・!・・・危ないことが起きそう)
斬が哂うのは、決まって何か危ないことが起こる前だ。
あの修行のときも・・・
!
笑みが似ている。
あの時と。
そっくりそのまま、あのときが戻って来たように、蔭は膝からがっくりと倒れた。
「蔭!?大丈夫か?」
異変に気づいた蘭が、真っ先に蔭へ駆け寄る。
「・・・あの時が戻ってくる・・・」
蘭の後に続き、中に入ってきた秦が、顔色を変える。
「あの時って、まさか煉獄凶のことか!?」
こくこくと、蔭が力なく頷く。
「・・・くそっ!」
「ねぇ、煉獄凶ってなぁに?」
はっと振り返ると、不思議そうにこちらを見ている麻貴がいた。
奥歯をぎりぎりと噛み締める。
何も知らないこの子供。
あの地獄を知らないなんてなんて恨めしい。
この記憶をそっくりそのまま叩き込んでやりたい。
「ねぇ、なんなの??」
秦が駆け出そうとした。手に鋭い小太刀を持って。
「ダメっ!何やってんだよ!アホっ」
感情的になった秦を蘭が止める。
そこでやっと、秦が落ち着いた。
まだ麻貴が不思議そうに見る。
「・・・・・煉獄凶は、地獄だ・・・・」




