第二十話・何で殺されなかったの?
「い・・行っちまった」
黒い雲は散り、青空が戻ってきた。
「柊!」
部屋に戻ってきた柊に、千代が飛びつく。
「怪我はないな!?・・・よかった」
麻貴も、咲も音魁も、ほっと胸をなでおろした。
そして、柊自身も。
まさか生きて帰ってこられるとは、思っても無かった。
あの時。喉元に手をかけられたとき、あれが最後と思っていたが・・。
「なぁ千代。五大神の中に、冥堂はいたんだろ?」
思っても無かった言葉に、千代がはっと言葉に詰まる。
「わしは・・しらん。が、そんな事は無いと思うが」
「そうよ。突然何を言い出すのよ。柊」
「あいつは敵だ。まずありえない」
千代の言葉を援護するように、蔭と秦が
次々に言葉を投げかける。
「だって、同類って言ってたんだ」
たしかにあの時、あいつは庵にむかって「同類」と言った。
それを聞いたときの庵の顔は、恐ろしく怖く
恐ろしく、悲しい顔だった。
「それは・・・それはきっと、あいつも神の端くれだからじゃないのかな」
煩が、ぼそりと呟いた。
「庵、あいつの言葉に惑わされすぎっ!」
ぽかっと音がして、凛が庵の頭を殴る。
「・・・・・・悪かった。でも、あの時殺しておけば・・・」
「無理いうなよ。俺らじゃ殺せない。よくて相打ちってやつじゃねーの?」
近くにあったソファーに、音をたてて湾が座る。
すこしホコリが舞った。
ごほごほっと、咳き込む。
「でも、なんで柊を殺さなかったんだろうな・・・・」
腕組みをして、満が考えるような格好をする。
あの時点で、柊は殺せたはずだ。
あんな、神でもなんでもないただの子供・・・・
「殺さなかった、じゃなくて殺せなかった・・・じゃないのかな?」
顎に人差し指を当てた凛が、笑うように呟く。
「まさか。ふざけた冗談言うんじゃねーよ」
「あら、あたしはちょっと本気だけど?」
闇の中に一つ、大きな大きな屋敷があった。
どの部屋も畳が敷かれ、長い廊下には怪しげな篝火の行燈。
その屋敷の最上階の奥の奥の部屋。
そこに、冥堂は降り立った。
襖をぱしんっとあける。
部屋の中で一番目に付くのは、大きな、牢屋ににた檻。
その中に少女がひとり。
手足を拘束しているわけでもなく、ただ押し込めているだけ。
セミロングで、ブリーチされた栗色の髪。
フリルがついたドレスを着せられているから
日本の女の子には見えない。
「小夜様。ご機嫌いかが?」
冥堂は、少女−小夜−に笑いかける。
生きた目をしていない少女は、そのまま顔を上げた。
「・・・・・・・・此処からだして」
「それは出来ません。まだ時は満ちていませんから」
「此処から出してよ・・・・。私・・・」
その声は、襖を閉める音で掻き消された。
一応書いときます。
ブリーチ・・・髪の色を脱色させる事。
BLEACH(久保帯人・週刊少年ジャンプ掲載)
ではありません。
分かるかもしれないけど、一応。