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水晶物語  作者: 寿々
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第一話・今日は最低最悪の厄日

5月の半ば。

青々とした緑の若葉は、二人の少年の上で揺れている。

遠くからはきゃっきゃと騒ぐ子供の声。

牛の鳴く声、村人の声。

全てが嘘みたいに明るくて、優しい。


「・・・・・」

「ね、柊くん。今あの子なんて言ったの?」

八神神社別名「御稲荷神社」の境内で

二人の少年が目を丸くして立っている。

「聞こえなかったのか?わしは同じ説明を二度するのが嫌いじゃ。

そこのお主、このちっこいのに言うてやれ」

その目の前には、高価そうな着物を纏って、ふわふわ浮いている不思議な少女。

自分も「ちっこいの」のくせに偉そうな態度をとっている。

「ち・・ちっこいのって・・ボクは君より年上だよ!」

「わしは平安の時代から生きとんのじゃ!」

懐から扇子をとりだすと、また偉そうにそれで自分を扇いだ。

実をいうとこの少女、この二人にしか見えないらしい。

「え・・・っと、麻貴、コイツ見えるな?」

「うん。見えるよ」

少女は二人のほうに向き直り、空中で胡坐をかいた。

目は赤い瞳がらんらんと輝き、恐ろしくもある。

「じゃ、自己紹介から。わしの名は・・・・」

少女が自己紹介をしようとしたその時、柊が口を挟んだ。

少女はあからさまに嫌そうな顔をした。

「ちょっと待って!普通ここで自己紹介!?

だいたい君おかしいだろ!平安時代から生きてるとか!浮いてるとか!」

持っていた扇子で、少女はバシーンと柊の頭を叩いた。

ある意味ハリセンで叩かれるより痛い。もの凄く痛い。

たまらなくなって、柊は自分の頭を抱えてしゃがみこんだ。

「だから、今此処でそれを言おうとしているのに、お主が余計な口を挟むから

悪いのじゃ」

「だからってフツー扇子で思いっきり引っ叩くか・・・!?」

二人って、会ったばっかなのに仲良しだな、と

麻貴は口には出さなかったが思った。

口になんて出してみろ。今その場で自分の命が絶えるぞ、と

麻貴はちょっとした恐怖感を覚えた。

「改まって自己紹介をする。わしの名は「千代」。神々の遣い魔だ。

そこのちっこいの!名は!?」

扇子を麻貴の鼻の頭まで突き出して

千代は叫んだ。

「水野麻貴・・・・です」

「フン。女みたいな名前しやがって。で、そっちの馬鹿っぽいの。名は?」

最低最悪な言葉をはいて、麻貴同様、柊にも扇子を突きつけた。

「って〜・・・!あ?名前?柊!志摩宮柊!」

「一回言えば分かるわ。クソガキ」

また千代は、柊を一発殴った。

麻貴がおろおろして、柊に駆け寄る。

柊は今度は腹を押さえてぐあーと声を上げながらしゃがみこんだ。



「とにかく!俺たち学校行くから!お前の神様なんたらは放課後聞いてやるよ!」

「じゃーねー!」

おかしな少女からなんとか逃げ出した二人は、学校目指して

一目散に駆け出した。

「ね、柊くん。あの子の話聞く気?」

「なわけねーだろ。子供の遊びだ。今日はとっとと帰って

マンガ読みたいんだ」

「浮いてたのは?子供の遊びであんな事出来るかな?」

「この頃のガキは何仕出かすかわかんねーの」

二人は舗装されていない砂利道を

砂埃を立てながら全速力で走った。

今の二人の頭の中には、「遅刻」の二文字しかなかった。

その頃、一人取り残された千代は、そのままふよふよ浮いて

二人の後を見つめていた。


学校の時計の針は7:55を指していた。

「まにあったーっ?」

「なんで疑問詞なんだよ。間に合ってるよ」

「まにあったー、じゃなくて提出プリントだしてくんない?」

ずざざざざざっと後戻りをして、よく見ると、教室の前に

みつあみでメガネをかけている女の子が仁王立ちしていた。

「・・・・・おっす、相川・・」

「おはよ。咲ちゃん」

不機嫌そうな顔をしていた少女は、急ににっこりと笑った。

そして、その場から動いたかと思うと、柊の腹に蹴りを食らわせた。

ぐぎゃぁああーと奇声を上げ、柊はかるく30メートルは吹っ飛んだ。

「毎度毎度遅刻しおってボケどもが!」

その一言で、咲は右足を前に出した。

「おのれらのせいで・・・・」

その右足を軸に、麻貴の方へ向き、麻貴と視線を合わせる。

「わたしゃ毎回毎回センコーに怒られとんのじゃー!!」

麻貴の胸倉を掴むと、反対側の廊下に麻貴を投げ飛ばした。

いったいその華奢な体の何処に、そんなパワーがあるのだろう。

麻貴も「ヘルプー」と叫びながらべしゃりと廊下に落ちた。

「毎度毎度凄いね。咲」

「これくらいトーゼンよ」

「咲に逆らったら殺されちゃうね」

「当然。ひねり潰すわ」

クラスの女子と笑いながら、咲は教室に入ろうとした。

その瞬間、視界に異様なものが映った。

赤い着物をきて、赤い眼をして、浮いている。

「・・・・・?」

「どーしたの?咲〜。センセ来ちゃうよ」

「あ・・あぁゴメン。なんでもないの」

幻覚だ、少し疲れてるんだ。

そうやって自分に言い聞かせ、咲は廊下にへばりつき苦しんでいる

二人を無視して、教室に消えていった。

「今日は厄日だ・・・・・・・・・・・・」

「朝から二回も殴られちゃったね・・」

「たぶん三回だと思う」




そのとおり、今日は二人の運命が変わってしまった厄日なのだ。









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