第十七話・否
「千代」
いままで過去の自分を見ていた千代が
はっと現実に引き戻された。
「凛、起きたってさ。傍に居てあげた方がいいんじゃない?」
にこっと咲が笑いかける。
千代は慌てて部屋の中へ飛び込んだ。
その後すぐに、千代の嬉しそうな涙声が聞こえた。
「よかったね。千代ちゃんも、凛さんも」
「だな」
麻貴と音魁は顔を見合わせて笑った。
同刻。
水神の庵は凛の力が無くなった事を知った。
その同刻。
湾・斬・満にも、そのことが知らされた。
「やはりな」
ぼそりと庵が呟く。
その右隣で、秦が心配そうに庵を見ている。
敵は王家の姫をさらった。
それは、もうすぐ攻めてくるという合図でもある。
凛の力は女とはいえども強かった。
しかしその凛の力は消え、代わりに子供が四人。
力任せに暴れる事は可能だろうが
凛ほどの力を持っているのか。
答えは「否」だ。
ついさっきまで学生だった弱々しい子供に何ができよう。
秦は唇をかみ締めた。
「庵様。やはりあいつら如きが凛様の後継など到底無理なんじゃ・・」
渋い顔をして秦が言う。
庵は無表情のまま立ち上がった。
「何処へ行かれるのですか?」
「・・・お前も来い。それと秦・・」
秦が不思議そうな顔をして庵を見る。
鋭い目が秦を捕らえた。
秦は顔色一つ変えることなく、庵を見る。
「凛は所詮女だ。女が一人いようと欠けようと大差は無い。
それに、邪魔な奴は黙らせておけば良いだけの事だ」
身と身体に纏った布と水を翻し
庵は部屋から去っていった。
斬はその頃、蔭を引き連れて凛の部屋にいた。
満も湾も、煩と蘭を引き連れて、凛の部屋で待機していた。
「まさかお前があんな餓鬼の力の器になるなんて
思ってもなかったぜ。凛」
喉の奥から低い声が聞こえる。
凛は顔を伏せた。
「べつにいいじゃん。斬に関係ないもん」
完全にふてくされている様だった。
「にしても、大丈夫なのか?凛」
「出血がひどかったらしいな」
湾と満が代わる代わる声をかける。
蘭と煩も声をかけようとしたが
やめたほうがいいと蔭に止められた。
「なぁ蔭。庵様と秦がこない。どうしたんだろう」
「気まぐれだもの。でもそのうち来るわよ」
「大丈夫だよ、蘭。二人ともこちらに向かってる」
耳に手を当てて煩が言った。
煩は耳がいい。
その瞬間、ばたりと扉が開いて
二人が入ってきた。
「ね!あたったでしょ」
くすりと、煩が笑った。
でも、秦の顔色は、青ざめている、に近かった。
「どうしたの?秦。大丈夫?」
髪を翻し、蔭は秦に駆け寄った。
「・・・・
冥堂の手下達が、こっちに向かっている・・・。
数は・・・中体が七体。完全体が五体。
あと、冥堂自身もこっちに向かってきてる!」
何人かを除いた顔が青ざめた。
そしてその青ざめた顔は、柊たちにもはっきり分かった。