第十六話・死ねない少女・千代の過去
遥か昔の平安時代に
千代は生まれた。
千代が住んでいたのは都から外れた小さな村。
そこでは、儀式が行われていた。
雨の降らない年は、小さな少女を、神の生贄に捧げる。
「燦!待ってよっ」
この時、千代は六歳。
幼馴染に、燦という男友達がいた。
「千代が遅いんだよっ!」
「なんですってぇ!?」
二人はとても仲良しだった。
いつも一緒。
運命が二人を突き放すまでは。
ある日、千代が家へ帰ると、家族全員が泣いていた。
どうしたのか、と千代は不審に思い
「どうしたの?みんな」
すると、祖母の手には大きな鎌が握られていた。
千代はこれを知っていた。
あの恐ろしい儀式のときに使う鎌だ。
「千代、あなたの番が来たのよ・・・・」
確かにこの頃全然雨が降らない。
そして、前の、その前の年も雨が降らなかった。
「ねぇ。お母さん嘘でしょ?私まだ死にたくないよ」
震える声で切実な願いを言うが
それが聞き入れてもらえるはずも無い。
「ゴメンね。千代」
「いやぁああああああーーーー!」
鎌を持ってる祖母を押し倒すと
千代は家の外へ飛び出した。
どこにでもいい、逃げなきゃ。
今は村中が敵。
助けてくれる人なんて一人もいない。
村から、出なきゃ。
「千代!」
遠くで声がした。
燦が叫んでいる。
「燦?」
「こっち!こっち!」
後ろから鎌をもった連中が追いかけてくる。
千代は燦めがけて走り出した。
「大丈夫?千代」
「大丈夫だよ。私、早く行かなきゃ」
草を掻き分けて、先へ進もうとしたが
時すでに遅し。
子供の力では大人には勝てなかった。
鎌を振り上げている大人が、千代を見下ろす。
千代が後ずさりしている隙に
燦は大人たちに抱きかかえられ、保護された。
「さ・・・燦・・」
千代一人を死なせるわけにはいかない。
「千代!逃げろ!逃げるんだ!」
でも千代は足が震えて立つ事も儘ならない。
その時。
千代の頭上から、大きな鎌が振り下ろされた。
どしゃっと鈍い音がする。
「千代ーーーーーーーーーーーーーっっ!」
生贄にされた少女はあっけなく死んだ。
と、思われた。
千代は頭蓋が割れたまま、また起き上がった。
血を滴らせて
千代はまた起き上がった。
「ちよ?」
燦も、周りにいる大人たちも声が出ない。
そして
「燦。さよなら」
そういうと、千代はふらふらと歩き出した。
「ば・・化け物!!!」
鎌を持っていた大人が再び千代へ鎌を向ける。
また鈍い音がした。
が、千代は倒れることはなかった。
このとき、千代は何故死ななかったのか。
それは自分でも分からない。
ただ、そのときの記憶ははっきりと鮮明に覚えている。
そして、頭蓋の傷も癒えた、明治の時代に、
ぷつりと糸が切れたように千代は死んだ。
そしてまた、生まれてきた。
こんどは、王家の娘として。
不思議な輪廻。
時は廻る。廻る。
死ねない少女。
此処で死んでも、私はまたいつか生き返る。
不思議な輪廻。
時は廻る。