第十三話・始まり
凛は、また煙を吸い込み、吐き出した。
「王家には、二人子供がいたの。それが千代と小夜様。
でも、主の考えでは、子供が二人生まれるのはいけないって思い込んでて
後に生まれた千代を、あたしたちに預けたの」
現に、王家に子供が二人生まれることは天変地異が
起こるくらい珍しいことらしい。
それでか、千代は六歳の頃のまま、体が全く成長
しないのだ。
「あ、これ千代には内緒よっ!王家の人達がおしえないでぇ〜って
泣いて頼んで来るんだもんっ。おもしろかったぁ」
けたけたと凛は笑った。
性格最悪だよ。この女。
その時、他の部屋から、地響きがした。
「わっ!?」
「きゃぁっ!」
咲が耳を押さえて、辺りを見回す。
「あぁ、アレは妖魔よ。戦ってんのは・・庵かな?
あいつ寝起きとぉっても悪いからねぇ」
地響きは、はっと止んだ。
その瞬間、麻貴が窓を開けて、周囲を確認する。
柊も麻貴の後ろから窓の外を覗き込む。
花びらが舞っていたのと、
水が妖を包んでいた。
「水・・・?」
「水?やっぱ庵かぁ!」
ぽん、と叩いてキセルの中に詰まっていた灰を落とした。
そして、だらしないあくびを一つした。
「じゃーあたし寝るからー。柊と音魁の力授之儀式は明日
早めにするから」
ぼりぼりと首筋をかきながら
一括りに結っている髪を外しながら凛は言った。
「おい!俺ら何処で寝るんだよーっ!」
「・・・・ソファーで良いじゃん。ソファーで」
「来客に対してその態度はおかしいだろ!」
「なによ。文句あるっての?じゃぁ床で寝なさいよ!床!
それが嫌なら・・・ぐぅ・・」
ぶちん、と柊がきれた。
「途中で寝てんじゃねぇーーー!!!!」
結局、四人は四つあったソファで、寝ることになった。
ちなみに、寝相の悪い柊は何度か落ちた。
ちゅん。ちゅん。
スズメが鳴いている。
ああ、朝か。
学校行かなきゃ。
あれ?なんで俺制服のまま寝てんの?
風呂は?風呂に入った記憶がない。
めし・・はなんか豪華だったような・・・
ん?なんか聞こえるぞ。
起きろって?無理無理。こんな眠いのに。
あ、でも学校行かなきゃ。
今日は体育でマラソンがあったよーな・・
「おきろぉーーー!柊ぃぃーっ!!!」
びんびんと耳に響く声が、朝の静けさを裂いた。
その犯人は、咲だった。
「あ・・相川?なんでいんの?俺ん家だぜ?
ありゃ、俺ん家こんなに広かったっけ?」
はぁーと、咲がため息をつく。
隣で音魁が笑うのをこらえている。
そのまた隣で、麻貴が「おっはよーっ」と言っている。
「昨日のこと、覚えてないの?」
ぼけーっと頭を回すと、やっと思い出した。
そっか。ここは天界だ!
「つーか相川。お前変わった服きてんな」
咲ははっと顔を赤らめ、両腕を体の前に持ってきた。
昨日着ていた制服はいずこへ。
上半身の服は秦や蔭が来ていたのと同じ。
下半身は短いズボンを履いていた。
膝はもちろんのこと、太股も半分くらい出ている。
「らっ・・・蘭ちゃんに作ってもらったの!」
これをか?この洋服をか?
あいつやっぱ女じゃねーか。
「はやく起きてよ柊くんっ!柊くんも着替えたほうが良いよっ!」
にこやかに笑いながら、麻貴が机の上を示す。
そこには、キチンと折りたたまれた服が
「柊用」と書いた透明の袋に入れられていた。
「お前と俺は今日力をもらうんだろ。
はやく着替えとけよ」
くすくす笑いながら、音魁がソファにもたれかける。
かーっ!やっぱムカつくっっ!!
上半身を起こすと、鏡台の前に
口に髪留めのゴムをくわえた凛が鏡を睨んでいた。
何度も何度もやり直している。
さらさらの髪が揺れるのをちょっと見とれて見ていたとき。
「何やっとんじゃ」
上から千代が降ってきた。
「ぐぎゃっ!」
「凛様を見ていたのか?いやぁ、何度見ても
髪を整えているときは惚れ惚れするくらい素敵じゃなっ。
そうじゃろ?ん?いうてみぃ」
けっけっけと笑って、千代が飛んでいった。
うるさいっ!と怒鳴ってやろうかと思ったがやめた。
「さぁ!飯食ったら今日もやるぞぉーっ!」
凛がきゃーっと叫んだ。
始まりを示すように。