第十二話・二人目の姫君
今まで赤かった凛の顔が、突然青ざめた。
「どうしてそれをっ・・・・?」
「今さっき蔭から聞きましたっ!なんでもっと早く・・」
柊は苦しくなった。
肉体的にじゃないよ、精神的に。
そして、やりきれなくなって、叫んだ。
「あああー!もーっ!だいたい姫様ってなんだよ!?
俺らも守護者だろ!?それくらい教えろよ!」
凛と千代は二人顔を見合わせて、そしてから向き直った。
「ふん。童が。大層な口を利きおって」
「・・・いいわ。全部話すから」
手元にあったマッチに火をつけ、行燈に灯す。
煌びやかな部屋に、不釣りあいな質素な行燈。
揺ら揺らと、炎が揺らめいた。
「破邪」
一言呟き、凛は行燈に手を掲げる。
日は落ちた。
月が、あがってきて、ちょうど真上からそれた頃。
「庵様。来てます。中体が六つ。残りは魑魅魍魎です」
それまで規則正しい寝息を立てていた庵が
「わかってる」
と言い放ち、ベットから下りた。
秦が、がらがらと音を立て窓を開ける。
月明かりに照らされて、何かが見える。
それは、まごうことなき、妖だった。
「フン」
庵は鼻で笑うと、手を空に掲げた。
「オア」
『わかっていますよ。主』
その手を、もっと先へ突き出す。
「そう、全ては無にかえる運命。
水に溶けて消え去れ。醜い妖どもよ」
ふっと呟くと、庵の体に巻きついていた水が
庵の手を伝い、空へと放たれた。
もの凄い速さで飛んでいき
妖どもを無に帰した。
「処罰」
隣にいた秦が叫ぶ。
手甲から、花びらが舞い、それはやがて消えた。
「終わりました」
「せっかくの安眠を邪魔しやがって。
俺は寝る。今度起こしてみろ。お前を真っ二つにしてやる」
「そういうのは妖に言ってください」
天界には、その上に王家というものがあって
我々神々は、それを守るために作られた組織。
人間を観る、というのは仮の姿で
本当は、王家のためだけに存在するのだ。
「なのに、わしらは・・・それを守りきれなかった。
わしが、下界へ行く前から気づいておれば・・!」
自暴自棄になっている千代を、凛は
そっと抱きしめる。
「あなたの所為じゃないわ。あなたは自分を責めすぎ。
疲れているのよ。おやすみなさいな」
こくん、と小さく頷くと、
千代はおとなしくベットに向かった。
咲が、ふらふらと歩く千代を見つめる。
「ねぇ、凛。気になっていたのだけれど」
目線を逸らさずに、咲が問う。
肯定するかのように、麻貴が頷く。
「みんな、名前の最後に「ん」がついていたでしょ。
でも、千代だけは付いていないわ。何故なの?」
凛は、キセルを口にくわえ、
マッチで火をつけたまま、応えた。
「あたし達は五大神になった後、名をそれぞれ貰うのよ」
ふーっと、キセルから吸い込んだ煙を吐き出す。
それは行燈の周りを囲み、やがて消え去った。
「でも、王家の者は、一度貰った名を変えてはいけない」
音魁が、はっとした顔で、凛を見る。
「じゃぁまさか・・・・」
「そう
千代は王家の姫様なの。
しかも、一番高い値をもっているわ」