第十一話・さらわれた姫君
蘭がまだ啜り泣いている時に
部屋に、一人女が入ってきた。
まさかコイツも性同一障害とかいうんじゃないだろうな・・
「荒神様の代理。蔭でございます」
無駄に長い髪をひらりと靡かせ
真紅の眼を、柊たちへ向けた。
「斬様は気乗りしないという事で
こちらに参られませんでした」
こつこつと足を戸を響かせ、柊たちの方へ向かう。
「柊」
そう呟いて、柊を指差した。
「音魁」
また同じように
「麻貴、咲」
それぞれを指差した。
「合っていますか?」
こくこくと、咲が頷く。
「では・・私はこれで」
ひゅうっと風の音がしたかと思うと、
蔭は其処からいなくなっていた。
千代は出て行こうとする蔭をひき止めるため
廊下で、蔭の前に立ちふさがった。
というか、目の前に浮いた。
「どうしたの?千代」
「どこかおかしいぞ。蔭。王の姫君様、いらっしゃるか?」
そう問うと、蔭は悲しそうに眼を伏せた。
瞳には、涙が滲み、潤んでいる。
「なにがあった?言うてみい」
「姫様は・・・・・・・」
長い廊下からは、声一つ聞こえなくなった。
「じゃー、最後は俺だな」
お釈迦様の格好をした大男が立ち上がる。
傍にいた少年も、一緒に。
「俺は光神の満!こっちは・・・」
「煩です。よろしくですっ」
愛嬌のある顔が、にこーっと笑う。
麻貴がにこーっと笑い返すと
照れ隠しなのか、その白い髪をちょっと引っ張った。
「何みんなで和んでんのよぉぉお!」
その場を裂く、嫌な声がした。
なにもこんな和やかムードのときに戻ってこなくてもいいだろ。
「り・・凛。大丈夫か」
湾が話しかける。蘭が、いない千代の代わりに、凛を
支えようとした。
「大丈夫な分けないでしょーっ!きめた!もう一切お酒は飲まないっ」
無理無理。そういう奴に限って無理なんだよ。
心の声が聞こえたのか、凛は柊をギロリと睨んで
酒瓶を投げつけてきた。
「わ!」
「っと!」
「きゃぁ!」
「ひゃぁ!」
「きぃーっ!ムカツクぅうう!当たんないぃー!」
がっしゃーんと音を立てて酒瓶が壊れる。
間一髪で、四人は其処から逃げ出した。
はは・・と湾が苦笑いをする。
「あー・・ああなるともう手がつけられないんだった。
じゃ、俺帰るから!後はがんばれよ!柊とその仲間達!」
ネーミングセンス悪!!
つーかこの状況で助けないってどーよ!?
おい!とかなんとか言ってる間に満も逃げちゃったし!?
どーすんの!?子供助けろよ!
「きーっ!イライラす・・「凛様!」
ばたんと、千代が部屋に飛び込んできた。
そのおかげで凛の一方的な攻撃は止んだ。
ナイス!千代!
と、その場にいたみんなが思っただろう。
「凛様・・・!姫君が・・小夜様が浚われたって、どう言う事ですか!?」
姫君?
姫君って、プリンセスの事?
「しかも、冥堂に浚われただなんて・・」
おーい、俺たち置いて話し進めないでくださーい。
つーか、めっちゃやばそうな話なんですけど!?