プロローグ・彼女との出会い
星のない夜だった。
その闇の中で何かが自分を呼ぶが聞こえる。
また、まただ。
幼女の声が、耳の中に・・・・・・
ここはとある田舎町。
田園風景が広がる田舎町。
田のあぜ道を、二人の少年が歩いている。
一人は真っ黒な髪は肩まで伸ばしていて、歩くたびにその髪が
はたはたと揺れる。
「ちょっと、学校行く前に八神神社によってもいいか?」
黒髪の少年が自分よりちいさな少年に尋ねる。
「いいよ!神社によるのは柊くんの日課だもんね」
柊と呼ばれた少年は笑って駆け出した。
その後を、小さな少年が続く。
かるく苔なんかがはえた石段を、ひょいひょいと上がって行く。
「待っててもいいぞ!麻貴!」
麻貴と呼ばれた少年は、ボクもいくよ!と
階段を駆け上がった。
八神神社。
何処にでもありそうな、古ぼけた神社。
この神社は、平安時代の初期から作られているそうな。
取り壊そうとすると、狐が怒って村人を喰い始めたらしい。
別名「御稲荷神社」。
「ね、柊くん。どして毎日お祈りするの?」
賽銭箱の前で手を合わせている柊に、麻貴が問うた。
「じいちゃんが昔言ってたんだ。毎日お祈りしなきゃ狐が喰いに来るって」
「信じてるの?柊くんらしくないよ」
「信じてるわけねーだろ!やりたいからやってんだよ」
再び神社に向き直り、手を合わせようとしたそのとき。
境内に、女の子がいた。
高価そうな着物を纏い、
どこか寂しそうな顔をした少女が
大きな丸い目で、こっちをじっと見ていた。
見た目からして5〜6歳の幼女。
これ以上ないような黒髪をおかっぱに切り
後ろは腰まで垂れている。
赤い大きな珠がついた簪を挿している。
「・・・・・・柊くん。この神社、子供いたんだね」
「無視しろ、無視。ガキは関わると厄介だから」
「はーい」
二人は背を向けて神社を後に学校へ行こうとしていた。
「まて」
重く、強い声が二人の耳の中に響いた。
声の主はあの幼女。
「幻覚だよね?」
「この場合幻聴だ。だれか幻聴と言ってくれ」
柊はひくついた笑顔で、おそるおそる振り返った。
あの幼女はいない。
「ほら、幻だよ。まぼろし」
「そーだね」
「んなわけあるか」
向き直ると、異様に態度がでかい踏ん反り返った幼女が
二人の目の前で浮いていた。
手をぶらりと下げ、顔を二人に近づけ
真っ赤な目で二人を睨む。
「わーっ!!妖怪が出たー!狐の祟りだ!ゴメンなさい!明日からちゃんとお祈りします!」
麻貴はすっかりテンパって、柊の後ろでぐるぐる回っている。
柊もこれにはぐぅの根も出ない。
顔を真っ青にして、一歩も動けない。
その時、幼女がおかしなことを口にした。
「お主ら、わしが見えるんじゃな?」
これが、稲荷神の遣い魔、千代との出会い。