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1.飛行

 ―――― 空を飛ぶことに、憧れはないだろうか。


 単純な話、授業中とか、退屈な休憩時間とか、やることも特にない放課後とかにぬぼー……っと空を見てるときに。

 ………あー、空飛んでみてぇー。

 とかそんなこと、思ったこと、ないだろうか。

 ああ、あるある! とか共感してもらう必要はない。少なくとも休憩時間とかに空見てるような奴が、一回でも飛んでみたいと思ったことがないなんてこと、ありえない。少なくともそのはずだからだ。

 自由な蒼穹、限りなく高い俯瞰の風景。

 鳥のように羽を羽ばたかせるでも、どっかの電話ボックスで返信するスーパーヒーローのようにマント一丁で飛ぶでも、海外のスパイ映画に出てくるようなブースター背負って飛ぶでもいい。何なら頭上にプロペラ付けたっていいだろう。

 有形無形、すべての束縛から離れた自由な中を、そんな風に旅する。

 この世を憂う、とか格好付ける必要はない。要はここじゃないどこかに一回でも行きたいと思った連中の夢。


 だが正直なところ、空を軽々に飛ぶことを実行に移すべきではない。

 現実は得てして非情なもの。すべての自称は『規律(ルール)』と『因果』に縛られてる。

 人の肉体で羽ばたき空を飛ぶには人の身は重すぎる。

 何もなくビルから跳べば路面へ叩きつけられて血肉をさらし、

 ブースターを背負えば、背は焼け焦げる。

 頭上のプロペラも危険だ。音速超過の回転するプロペラは人体をたやすく破壊し、結局飛ぶのは頭皮だけだ。


 人の身に、蒼穹を行く体躯は重い。

 得たところで、それは破滅にしか直結しない。

 それが現実、それが当然の因果。だからといって恨むことも憎むことも、仮になし得た人間がいたとしても妬む必要はない。

 それが『できないこと』は人間にとって当たり前、『できること』こそが異常なんであって、『できないこと』を嘆く必要性すら元来皆無なのだ。


 だから、

 ―――― 『俺』がこんな風に飛んでいることは異常なことで。

 『私』がこんな風に堕ちていることは当然のこと ――――

 それだけの、話なんだ。

 

   × × × ×


 ――――踏み出した足は宙を踏みこんだ。

 床も大地も存在しない、宙という名の空間。道行く人が見上げることもなく、通りの向こうの窓から覗く者もない、立体的な死角の中、俺は決死の覚悟で跳躍する。

 重力から解放される、刹那。

 着地は衝撃と同時、殺しきるのは容易だった。再び四秒ほどの障害物上の加速の後に、もう一度俺は飛ぶ。

 ビルとビルの感覚は存外に広く、案外狭い。重要なのはやろうと思うための意思と踏切りを躊躇わない思い切り。それさえ揃えばこの程度の芸当、中学生でもできる。

 だが、今の俺のような状況――――


 ―――― ギンッ!


「………っ」

 追われている状況下となれば、話は別だ。

 ………くそっ。

 視界の隅で散った火花。それはつまり、背後から追っかけてきてる『そいつ』が相当な距離……少なくとも同じビルの上に存在することを示している。

追い立てられるように三度の跳躍三度の着地、受け身をとるようにして身を転がし、ブレザーの脇から『それ』を取り出す。

 ポリマーフレーム、全長十九センチ、装弾数十七発の、自動拳銃。他所の国では絶対的暴力の象徴であるはずのその存在も、今この場所においてはごく当たり前、小さいものであればランドセルの中にだって入っている代物だ。

 ろくな狙いも定めず、適当に背後めがけて、撃った。

 跳ねる銃身(バレル)、暴れる握り(グリップ)、前後する遊底(スライド)排出(イジェクト)される空薬莢。着弾したビルの淵はコンクリートの砂塵を上げて穴を穿ち、砲声をあたりに轟かせながら威圧の痕跡を刻む。

 刻まれた兆弾、踊る火花に、追跡者の影がビルの陰へと身を潜める。

「………っ!」

 転がるようにして身を跳ねあげ、再びビルの反対側へと走った。

 屋上の淵、眼下の町に轟いた銃声。人影は疎らな朝の一時が崩れた様子は、ない。


 ―――― 人殺しは日常、人死は通常。

 ―――― 見知らぬどこかの死は当然のことで、銃声に人は、振り返らない。


「ぅらぁっ!」

 気合いとともに屋上の淵から四度目の踏み切り。

こちらとの距離は、目算でおよそ六メートル。

届くか届かないか、その選択を一瞬脳裏に描く距離である。が、届くかどうかはこの際関係ない。

届かないと判断して立ち止まれば背後の脅威に殺傷され、

届くと判断して届かなければ大地に叩き付けられて死ぬ。

二者択一のはずの選択肢は両者の結果がほぼ同一という無常を突き付けて単一の隘路へと追い込まれ、結果唯一の道へと生を求めて選ぶ道は一か八かの跳躍という、ただ一つの選択肢。

 重力から解放される、わずかな時間。

 身を支える一切の力を失い、ただ前へ進むための力と万有引力に身を窶す、恐怖。背後から撃たれれば無防備に落下し、追い縋って跳躍されれば無防備な時間を追跡者にさらしてしまうことになる。絶対に回避したい数瞬間、届くか届かないかのイベント分岐点。


 ―――― 起源はいつなのか、正確にはわからない。

 ―――― ただ一つ理解できるのは、その法令の存在が社会を劇的に変容させたという、一つの事実のみ。


 ………届く!

 踏み切った足は明確に屋上を踏み、余った勢いは体制を前のめりにさせる。

 スマートとは言い難い着地、それでも生きていることは確かだ。安堵するにはまだ早いが、選択肢に勝利したのは間違いない。

 足を止めることなく屋上を駆け抜け、その反対側で再びの、


 ―――― 法令の名は、国家承認殺害者特措法。

 ―――― 拡大し感染し蔓延し暴走した『殺人事件』、それを抑止するために生み出された、『人殺しを殺すための法案』。


 跳躍、その前動作が、止まった。

「………うっそだろ…おい――――」

 見下ろす眼下、広がったその風景は大通り。

 いつの間にここまで来ていたのだろう。片側三車線のその道路は跳躍に踏み切る選択肢云々の前に、人間においてなせる限界をはるかに超えている。

 ………他に逃げ場は……っ!

 急がなければ、背後から『奴』がくる。焦燥に駆られるまま目線は屋上の全景をさまよう。このビルはほぼ正方形、来た方向は無理、他の方向は。非常時用の脱出スロープは。窓清掃用のゴンドラは。隠れられる場所、時間を稼げるような何かは――――


 ―――― ………ダンッ。


 背後で響いたその音に、不吉を聞いた。

「……っ」

 息の硬直背筋の剛直。全身の緊張は心中を偽らず、焦燥は冷や汗となって、冷やかに。

 最悪の現実が形になった確信。否定を望むように、あるいはその現実を肯定するために、背後を振り返った。


 ―――― かつては恐れられていたマフィアや暴力団、街中の不良は暴力の象徴ですらなくなり、

 ―――― 一大事件であったはずの通り魔は、交通事故並みの存在へと堕し、

 ―――― 市民を守るはずの警官すら、公的な守護の役目をその存在へと委譲した。

 ―――― 究極ともいえる暴力を振りかざすその存在こそ今の治安を守るカギで、命を守る要。それが、今の社会というものの現状だった。


 闇の中に全てを葬るような、肉体のラインを完全に覆い隠す黒。

 ケープへ通じるフードは、目線を隠すように目深に。

 街中に出現したシミのようなその姿。黒ばかりのその姿は、見ようによっては社会に反抗したい盛りの中学生のファッションとも取れなくはない。しかしそのどこか現実逃避にも似た認識はその人物の手にある大型の自動拳銃とケープに滲んだ『赤』によって消し飛ばされ、結果残るのは『黒』という色が元来に持つ、異様なまでの存在感。

「…………――――」

 何事かを呟くような音が、そいつのフードの奥の暗がりから漏れる。何かを問うたのか、何かを確認したのか、少なくとも問いかけるようなニュアンスで発されたその言葉は、しかし俺には届かずに風音に消えた。

 届かなかった、声。

 だけど、何を言ったのか予想はできる。推測でも憶測でもない、自分勝手で主観に偏ったそれは予想、確証も何もないはずのその声は、確かに俺にはこう聞こえた。


―――― ……あれを、見たのか?


 隠すことはできない。答えは是、イエス、肯定。俺は確かについ数分前、こいつの行った『見られてまずいもの』、『見たどうかを問いただすに足るもの』を、見た。

 人殺しの、その瞬間。

 俺と同じ学校、同じような改造をした同じ制服、同じような髪型と、どこにでもあるような風貌。平たく言えば没個性のその少年の口腔へと付きこまれた銃身、腰砕けになったその少年を覆い隠すように屹立する眼前の人物。見える姿に揺らぎはなく、動く姿にためらいは見えない、そんな姿で、この人物は、

 ただ単純に、引き金を引いて、

 そしてその少年の頭の中身を、空きテナントばかりが乱立するビルの踊り場の壁の装飾に変えたのだ。

 前衛的すぎる芸術の創作現場、そこに出くわしてしまったのは、まさしく不運としか言いようがない。さらなる不運は、新学期開始までの時間つぶしのために、俺がそのビルに上っていたことだろうか。

 そしてその逃げ場のない状況の中、目撃した事実をどこにどう連絡したものか模索している間にこいつが俺の目線に気付いて顔をあげて、発生したのがさっきの逃走劇。

 理解できる。俺とてこの世界に生きる人間で、社会が欲した仕事人、その養成学院に通う学徒なのだ。やってくる理解は当然のものとして理解に容易で、当惑のさしはさまれる余地もない。

 単純な話、眼前のこの人物は一切ためらわない。

 俺が学生であることも、まだ歳若い人間であることも、『逃げること』を選んだという事実も無関係に、この人物は俺のことを殺すだろう。

 今俺に銃口が向いていないのも、おそらくはただの確認のための時間取りだ。

 そしてそれが終われば、こいつは間違いなく俺の頭の中身をこの屋上の床の装飾へと変化させるはずだ。

 ………畜生。

 こんなところで、終わりか?

 生まれてからたったの十六年で、ろくな結果も残さずに?

 誰にも知られずに、こんな黒いのに殺されて終わりなのか?

 ………そんなの……

 口の端が、自らを鼓舞するように歪んだ。

「……受け入れられるわけ、ねーよな……」

「……?」

 眼前のそいつの首が、怪訝に傾げられる。

 ………なんだやっぱりこいつも人間なのか。

 その事実の認識に、沸きあがったのは安堵。殺されない、ではなく自らの側からも殺すことができるという、至極当たり前の道理が存在することを認識した、『得たいの知れない化け物』が『堂とでもなる敵』に変化する瞬間。

「まったく……新学期早々面倒なことに巻き込まれたかなーとか思ってたけど、まさかこんなことになるなんてな……」

 隠しとくつもりだったのに。

 使わないつもりだったのに。

 状況が狭めた選択肢、その悪意が、俺にそれを使うことを強要する。

 自然ともれたため息、その後に、

「前衛芸術の製作現場にばったり出くわし、変な黒いのに追い掛け回されて、挙句の果てにゃ追い詰めらてこのシチュエーション……いくらなんでも面倒臭すぎんだろこりゃ……まったく」

「………」

 眼前の黒衣が、困惑したように肩をすくめた。

 そりゃそうだ。俺だっていきなりこんなこと言い出す奴と出くわしたら困惑する以外に道はない。これも状況が狭めた選択肢、当たり前にして必然の結果だ。

「まあ、いくらぼやいたって見ちまったものは変わらねーんだけど……」

「っ」

 黒衣の姿が、明らかに緊張する。歩幅が一歩分大きく広がり、銃口がわずかに動いて刹那を渡る覚悟を決め、腰にも何かを隠しているのか、開いている左手がそちらへと伸びる。

 臨戦態勢、その構えに、俺は手の中の銃を脇のホルスターへ『戻した』。続く動作で変わりに取り出したのは、胸ポケットの中のバタフライナイフ。

 ゆるりとした動作で展開し、腰をかがめた。

「……ただ殺されてやるつもりなんて毛頭ねぇ。俺を殺したきゃ、殺されるつもりでかかってこいよ、人殺し」


 ―――― ガァンッ!


 銃声。

 見えたのは黒衣の手の中の閃光と、腕が跳ね上がったという事実だけ。

 飛翔した弾丸は見える余地などなく、ただただ破壊という結果だけを現実として認識させる。何もしなければ訪れるのはヘッドショット、一人の学生が屋上の前衛芸術へと変えられた、ただその後の風景だけだ。

 だけど、狙ってくる位置があらかじめわかっていたとしたら、

 ………話は、違うっ!


 ―――― ピュンッ!


 発砲とほぼ同時、俺の右の耳元を不快な音がはじけた。

 正確な狙いは避けやすい。それも相手が俺の通う学園の存在を知っているのならなおさら。

 俺の通う学園はこの近隣でもことさらに有名で、ことさらに物騒。それ故に支給される制服の上着は、すべて防弾加工されいてる。相手がそれを知ってて、なおかつこの距離で狙うとしたら眉間以外にありえない。

 思い切り横に倒した姿勢、耳元を掠めた銃弾。頬に引かれたラインは赤く、薄く長く血がにじむ。続く連射を前かがみで潜り、床に手を着き身を深くかがめ、

 踏み込んだ。

 思い切り、後方に。

「っ?」

 身を翻す刹那、黒衣の動きに驚愕がにじむ。無理もない。背後にあるのは片側三車線、飛び越えるには無理な長距離だ。ワイヤーも装備してない状況で下には降りられないし、それに到底飛び降りられる距離でもない。

 そんなことは、わかってる。

 わかっていてなお、いや、わかっているからこそ俺は屋上の淵を踏み込んだ瞬間、全力で跳躍した。

 風の音を切る圧縮された数秒間。跳躍という次元において人間は獣となり、不要な機能は地に放置され結果残るは人型の獣。落ちるという感覚すらない時間の中、自己という名の獣を幻視する。

 だが、それでもなお届かないことは自明の理。故にこそ俺は対峙の覚悟を一時決め、追跡者も問いかけに時間を費やした。飛ぶことで繋がるのはただの死、その事実を再確認し、

 再確認したその瞬間に、俺は自らの目を『切り替えた』。

 かちり。何かがはまり込んだような幻聴。歯車が嵌まり込んだように動かなかった別の箇所が動き出す感覚。それと同時に視界にあふれ出すのは、縦横無尽に視界を塞ぐ、闇の色持つ(くら)い線。

 世界そのものから湧き出るようにあふれ出る、漆黒の線。見える根底は地の底に続くように建造物の、地面の、人の、車の、街路樹の中へと消え、あるものは空から、あるものは何もない中空から、またあるものは大地から現れ、そこにあるものに絡みつくようにして吸い付く。

 すべてががんじがらめ、束縛された世界。

 見下ろす俺にも例外はなく、見える世界が、縛られている。

 見下ろす肉体、がんじがらめに縛る糸。その中でも一際目立つ、凶悪なまでの太さを持つ一本へ俺はナイフを走らせ、切断する。

 自らを拘束する縄を切断したような、一瞬の解放感。その中に埋没することなく、落下の最中、俺は一歩を『踏み込んだ』。

 足元は何もない中空、踏み込むための床も大地も遠くへ置き去り、踏み込んだとしてもただ宙を蹴り、崩れた重心はそのまま俺を転落による死の底へと落ちていく。それが日常の中での道理だ。

 だがそんな道理を踏み越える覚悟なしに誰がこんな中空に跳び込む? 踏み越えられると知らずに誰がこんな所へやってくる?

 誰に向けたわけでもない問いかけに答えるように、俺の肉体は踏み込みに答え空中で跳躍した。

 普段の跳躍をはるかに超える、重力による縛りすらも存在しない自由自在な空の行程。大地の制約も空の圧迫もない、ただひたすらに軽やかで自由な移動。

風切音は耳に涼しく、翻る布地は火照った体に心地よい。落ちることなく水平に、地面を踏む感触もなく移動する感覚は新鮮で、斬新でそれでいながら心地よく、異常を孕みながらも神秘という名の言葉に置き換えられる。

時間にして、だいたい三秒ほど。

 宙をかけたその体はくるりと向かいのビルの屋上で回転、飛行の勢いを殺し、そのまま床へと着地する。

「………ふう」


 ―――― 政府の認めた仕事人、その名を『NAS』という。

 ―――― 老若男女すべてを問わず社会の中に埋没し、いつどこで誰を殺しているかわからない物騒な連中。その認識を抱かれながらもその存在は社会に肯定され、社会の中に、息づいている。


 ため息と同時、久方ぶりの飛行で乱れた制服をざっと整え、手中のバタフライナイフを納刀する。

「……っと」

 納刀動作の中、関係のないラインまでナイフの刃先が引っ掛かった。危ない危ない、下手にどれかわからんライン切って碌な事にあった試しはない。納刀中とは言え、気をつけねば――――。

 開いたときとは逆の感覚、腕が一本消えたかのような感覚で、視界から黒い線が消えた。

 ポケットの中にナイフを突っ込み、渡ってきた通りの向こうへと目をやる。

 大通り挟んで向かい側のビルには――――おお、いるいる。この距離だと人形ぐらいにしか見えない、なんだか黒いの。屋上の淵に立って身を乗り出して……どことなく唖然とした風にこっちを見ている。

 こりゃいい。いい見せものだ。飽きるまで見物させてもらおう。

 飽きた。

「……まったく」

 つぶやき、腕時計をちらり。指し示す時間は八時寸前の七時。うむ、まだ余裕ではあるが急いだ方がよさそうだ。このまま悠長にここで時間使って、またあれが追っかけてきても困る。とっとこ登校してこの街で一番の安全地帯へ逃げ込も


 ―――― バキョッ!


 …………バキョ?

 ………なんだろう。

なんだかすっごーくいやな音が後頭部ではじけたような気がする。

 ちょうど……そう、あれだ。校内での授業。あれの失敗射撃(ミスショット)のときの音。屋内射撃で的以外のとこに当てた時の音にそっくりだ。珍しーなーこんな街中の屋上でおんなじ音聴くなんて。それもこの音、三十八口径(9ミリ)じゃないな。かといって俺のと同じ四十でもない、四十五でもまだ小さい。ちょうど板橋の奴が使ってるあれ、スタームルガーのレッドホーク。あれがミスったときの音によく似て――――

 って。

「マジかよおいっ!」

 後頭部わずか二センチ。打ち抜かれ弾丸一発にしてはあり得ないほど巨大なクレーターが穿たれてる。向かいのビルに目をやれば、なんということでしょう! そこにはこちらに拳銃を向けるあいつの姿が!

「まったくっ!」

 全力でその場から駈け出し、

「洒落になってねぇっての!」


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