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9.ひと月

「一体どういうことなんだ!このひと月の間、髪も金も根こそぎ奪われて、挙句に実行犯すら逮捕できてない!!」

「東と西は人も歩けない状態だ!一刻も早い解決が必要だ!」

「治安官が少なすぎる、もっと見回りを増やせないのか!?」

「今なお休みなく動いてるんだぞ!これ以上現場に負担はかけられん!」


怒声から始まった治安官の捜査会議。理髪店、銀行やATM、大企業の金庫に路上での犯行など夥しいほどの被害データが羅列され、また、何の成果も得られていない現状は、治安官たちの心労を大きくしていた。

まとまらない意見。連日の会議は日に日に混沌を増していく。


「ドッドファミリーはまだつぶせないのか!?」


集められた情報は坊主頭に三本の刈込みを入れた実行犯たちの目撃情報のみ。ドッドファミリーの関与は間違いない。


「マフィアの目ぼしい拠点はすでに確保済みです、しかし突入した時にはすでにもぬけの殻でした」

「また、ファミリーのボスはもちろん。幹部ですら、ひと月前からの情報がありません」

「なんと……!しかし、こんな大規模な犯罪を一介のマフィアだけでできるとは思えん!」


落胆の息が漏れる会議の中、一人だけ画面を見つめたままの男がいた。


「スタイロム!何を(ほう)けている!」


「……あぁ、(あき)れてたんだよ。お前らの無能具合にな」


「な、なんだと!」


机に手を置いてスタイロムが腰を上げる。ぎろりと光る眼光が治安官たちを射抜く。


「これだけの髪と金を奪っても、集めて置けるような場所は私たちが確保済みだな?なら、どこかへ流れてるはずだ」


「しかし、奴らと繋がっていた企業や政治家はすでにマーク済みだ。怪しい動きはない!」


「このひと月、奴らの被害を受けていない上位企業は全部で6社。内3社で新しいプロジェクトが秘密裏に進行中だそうだ」


「な、どうしてそんな情報を……!だが、情勢に合わせてプロジェクトを立ち上げるのは普通のことだろう?」


「そうかもな、でもそうじゃないかもしれない。この3社、十日ほど前から継続的に『断熱材』を大量に購入搬送している」


最高の治安官が発した内容に、会議室がざわめく。

飛躍していた情報に、もしかしたらと疑惑が積もっていく。


「大々的な捜査は上がうるさいだろう。私が一人で調べる」

「ちょっと待ってくださいよ」


スタイロムに向かって、若い男が声を上げた。

プラチナブラウンの肩口まである髪を揺らして立ち上がる。


「あなた一人で捜査を?ご冗談を、僕が行きますよ」


立ち上がった若い男の胸には銀のシンボル。最良治安官(ブリリアントマン)の称号が煌めいた。


「君は、ケイシーだったか……私一人で十分だが?」


「その自信はさすがですねぇスタイロムさん。でも、頭皮が涼しそうに見えますよ、老いぼれ(ファビュラスマン)?」

「心配は無用だ生意気小僧(ブリリアントマン)


にらみ合う二人をなだめるように、一人が声を上げる。


「なら、お二人にお願いしよう!」

「そうだな!トップスターとエースが捜査してくれるなら、任せられる!」


苦虫をかみつぶした表情で、二人は了承した。


「足を引っ張るなよ」

「そっちこそ。で、どこから行きます?」


スタイロムは表情を変えず、鋭い眼光のまま答える。


「ブレイズフォード・カンパニーからだ」


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

このひと月、能力で消費した髪はすっかり伸び元通りになった俺はBOXERを乗り回していた。


ほとんどがエラからの依頼によるもので、悪路を走らされたり、やたら信号機に引っかかるルートを指定されたりと、よくわからない内容がほとんどだった。

しかし、依頼料と報酬は破格で、俺の懐には1年は余裕で生活できるほどの金が貯まっていた。


今日はオフだ。何のしがらみもなく、ただ街をぶらぶらしている。

あぁ、人は金があるとここまで視界が変わるのか。いつも通りのはずなのに、世界がきらめいて見える。


小腹がすいたので、キッチンカーのホットドッグを買う。

香ばしいパンに、パリっと皮がはじけ肉汁がこぼれるソーセージ。嗅覚と顎に伝わる触感がたまらない。幸せをかみしめると、次にケチャップの酸味とマスタードの刺激が舌から脳へ届く。


あっという間に平らげる。

よし、腹ごしらえが済んだら次は酒だな。しばらく行ってなかったが、あの店に顔を出してみよう。

軽い足取りで、行きつけのバーに向かった。


東エリアのはずれ、高架線の下にひっそりとあるバーの扉をくぐる。


「おいすー、生きてるかマスター?」

「こっちのセリフだハコス。しばらく見ねぇんでくたばったかと思ったぞ」


店名すらないこの店は、完全にマスターの趣味で開いている。

店内はランタンが灯されて、温かみのある暗さ。カウンターにはキープボトルがずらりと並んでいる。

店内にはカウンターに一人と小汚いマスターだけ。


俺は席に座って、いつものウイスキーを頼んだ。


「真昼間から酒か?いい趣味だな」


カウンターにいた客が話しかけてきた。横目で見た後に、もう一度視線を向けてしまった。

そこにいたのは、見覚えのあるモヒカンヘアに三本刈込み線。タンクトップにカーゴパンツのスティンキーだった。


「てめぇ、何でここに……!」

「落ち着けよ、オイラは酒を飲んでるだけだ。子供と酒のうまい店には手は出さねぇよ」


そういってグラスを傾ける横顔は、いつも以上にウイスキーが美味そうに見えた。

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