7.配達
「おぉ~!自分の足で漕がなくても進む!坂道も楽!こいつはいいな!」
エラから貰った(多分返却しなくてもいいはず)のバイク『BOXER』に乗って、東エリアから中央エリアに向かって走っていた。
このBOXER、どうやらガソリン車じゃないようで、アクセルを回すとキュイーと高い音が鳴る。
今流行りの電気車だろうか。エラから聞いたところ、2年は給油も充電も必要ないらしい。もし動かなくなったらわが社へ持ってきてと言われている。2年もエネルギー切れが無いなんて、さすが新技術だぜ!(脳死)
そんなわけで早速、依頼を達成すべくアクセルを回す。
スピードは全速力の自転車と同じくらい、40~50km/hくらいだな。
このペースなら2時間半くらいで目的地までつけそうだ。
中央エリアに入る前に、休憩するか。BOXERの電源を止め、チェーン店のコーヒーショップに入る。
持ち帰り用の紙コップに蓋をして店を出ると、俺のBOXERに跨って動かそうとしている女がいた。
「っ!?なにしてんだ!お前!!」
間に合った。女の肩をつかみ、引き下ろす。
青い髪をポニーテールで結い、黄色いシャツの裾をはち切れそうな胸元で結び、ダイナマイツな尻が半分以上出てそうなデニムのショートパンツ。端的にいってドスケベ女だった。
しかし、未遂とはいえ泥棒である。ベッドでみぐるみはがされる前に逃げようと、BOXERの電源を入れる。
むにゅん。
柔らかな触感が背中に押し付けられる。
泥棒女がシートにまたがってきた。
「なななな、なにしてんの!?降りろドスケベ女!」
「はぁ!?失礼すぎ!っていいから出して!早く!」
女は焦った様子で体を揺らす。そのたびに背中に押し付けられたモノが形を変える。
もう少し……このままでもいいかな……なんて考えが脳裏をよぎった瞬間。サイドミラーに黒のワンボックスカーが猛スピードで映り込んだ。グラサンにスーツの上からでもわかるガタイの良さ。明らかに暴力が上手そうな外見だ。
俺は思わずアクセルを回した。
「俺は関係ないだろ!!なんで追われるんだ!」
「逃げるときに『彼氏のとこ行くから』って言ったからかなぁ!」
「ふざけんな!!それにこのバイクで車から逃げるとか無理だ!スピードが違いすぎる!」
「それならアタシに任せて!」
女のポニテがじりじりと短くなる。その後すぐにBOXERのスピードが上がる。
こいつ、能力を使いやがった!
耳元に流れる風の音がうるさい。視界を景色が流れる。
最高の気分だ。
「あと10分くらいしか持たないから!その間に撒いて!」
「オーライ」
今は大体180km/hくらいか。この辺りの地形や人の流れは把握済みだ。
ノーブレーキで振り切ってやる。
車体を傾けて左に曲がる。サイドミラーにはまだ追手が写っている。
このまままっすぐ行けば、2つ先の信号機であいつだけが止まるはず。
ふと後ろの女が叫んだ。
「危ない!」
女が俺の体を倒すように抱えた。
車体が揺れて傾き、右の大通りに出てしまった。
「おい!なんだよ!危ないだろ!」
「あいつら銃構えてる!まっすぐ走ったら撃たれるよ!」
サイドミラーで覗くと、窓から身を乗り出して無表情のままピストルを構える男。
くそ、街中で銃をぶっ放すつもりかよ!中央から西エリア境界の運河が近い、このままじゃ追っ手を撒けずに橋に入っちまう……仕方ねぇ。女に呼びかける。
「おい!お前ヘルメットは!?無きゃ俺の付けとけ!」
「わかった!って何するつもり!!」
高揚感に少しだけ不安がよぎる。自分でも俺が今、冷静じゃないことが自覚できてる。
でもなぁ、正気のままBOXERで走ンのはもったいねぇ!!
「決まってんだろ。飛ぶんだよ!!」
河沿いの工事現場にフルスピードのまま突っ込む。フェンスをなぎ倒して追っ手の車も突っ込んでくる。土管によりかかった鉄板を利用して、車体を浮かせる。地面を離れ、鉄板を一瞬で駆け、そのまま河へ___
「きゃあぁぁぁあ!!!」
「口閉じろ!!舌嚙むぞ!!」
内臓が浮かぶような浮遊感の後、衝撃。運河を渡っている貨物船のコンテナに乗れた。
だが、ここでブレーキは踏まない。もういっちょ!
コンテナからそのままの勢いで飛び降りる。
また、浮遊感。ミスった。着地のこと考えてなかった。気づいた時にはもう遅く、BOXERから手が離れる。
ゆっくりと視界が流れる感覚。
己の死を実感し、走馬灯が流れそうな雰囲気……だったが、BOXERが一瞬でキャリーケースに戻り、地面に落ちる瞬間に開き特大のエアバッグが膨らんだ。
柔らかな白に包まれ、コンクリにキスすることは避けられた。
縮んだエアバッグに手足を取られながらも、上体を起こすと女が先に起きて砂を払っていた。
「変わったバイクに乗ってるわね。それ、アタシにくれない?」
「はっ、一発ヤらせてくれんなら考えてやるよ」
「一発でいいの~?って冗談よ。本気にした?ここまで送ってくれてありがとね」
「えっ?……ん、おう」
「また会いましょ。素敵な運び屋さん」
軽く手を振って去る女の尻をしっかりと網膜に焼き付ける。
いつの間にかエアバッグがキャリーに戻ったBOXERを、再度バイクにしてまたがる。
パッと見た感じ大丈夫そうだな。電源がつくことも確認して、配達に戻る。
さっきまでの感触が背中にない。
BOXERもあの尻が恋しいのか、甲高い音でキュイーと鳴いた。




