5.アドリブ
「髪、短くなってねぇな。つまりお前は能力を使ってない、そのキーケースはジョークグッズか?」
ジョークグッズね。さんざん言われてきた。
面白い能力だけど、何に使えるの?って……はっ、そんなの俺が一番知りてぇよ。
いや、やけになるのはまだ早い。
俺の体と能力でできることを考えろ。
今日はまだ使ってないからな、設置できる数は4つ。生き物には使えないから、アイツそのものに能力は使えない。そして、まき散らされた粘着液を避けて触れられそうなポイント。
中身は疑似銃声……いや、さっき見せたばかりだ。しばらくは引っかからない。
ならやっぱり、銀テだな。
「いいアイデアは浮かんだか?ジョークボーイ」
「あぁ、おかげさまでね。スパイディ?」
「ははっ!いいなそれ!今から俺は【蜘蛛男】・スティンキーだ!」
スパイディはご機嫌な笑みを浮かべながら構える。
なんとなくだが、こいつには赤と青のピチピチスーツは似合わない気がした。
スパイディのヤクザキックをぎりぎりで躱す。すぐさま拳が振られる。とっさに腕で顔を守るように防御姿勢をとる。何とか肩で受けてダメージを最小限に……くそ、次のパンチが早すぎる!攻勢に出られない、チクショウ、腕でしっかりガードしてても痛い。
仕込みたいポイントまであと2歩、どうにかして隙を……
「ぶふっ!」
「やっといいのが入ったなぁ?」
大振りのパンチを食らってまた吹き飛ぶ。
モロに入ったせいで視界が揺れている。でも、まだだ。もう少し。
「はぁ、はぁ、悪いな。別のこと考えてたんだ……よく考えたらあんたの能力って、ザー〇ンじゃないのかってな……蜘蛛の糸を自称するにはスマートさが足りねぇよ」
「てンめぇ!このスティンキー様に言っちゃいけねぇ事をぉよぉぉ!!」
奴の髪がさらに短くなる。来た、このタイミング、このポジション。
壁のポスターに触れて、俺も能力を発動する。髪が引っ張られるような感触の後、少しだけ視界が良好になった。
「【蜘蛛の巣】っ!!!」
「【紙吹雪】!!」
奴の手から粘着液が飛ぶ。
一拍遅れてポスターが観音開きに開き、破裂音を伴って銀色に煌めくテープをはじき出す。
粘着液と正面からぶつかり合ったテープが、奴の体に覆いかぶさるように絡まる。
半身がネチョネチョにまみれたスティンキー。大幅に機動力を制限できたはず。これで裏口まで行ける。
「あ、釣られて技名叫んじまった……くっ、恥ずいけど、気持ちいい……!」
「てンめぇ……こんな手を隠してやがったのかよ。面白れぇ……!ここからはオイラも本気で……っ!」
ドオォォォン!
豪快な破壊音とともに、店のドアが吹き飛び爆風が抜ける。
飛んできた方向を見ると、逆光に照らされててもわかる屈強な肉体。光を反射する金髪。
明るさに目が慣れると、ハッキリと存在感を感じる。最高能力治安官……
「スタイロムぅ……なんで、ここに……っ!?」
「あちこちで理髪店が襲われてると通報が入ってね。君たちこそ、ここで何を……本当にナニをしていた?」
白濁した粘着液とか紙吹雪に銀テープが散乱している店内の惨状をみて、スタイロムは怪訝な表情を浮かべる。
状況が変わる。気を取られた一瞬、爆風によりスティンキーの拘束は外れていた。スタイロムは俺とスティンキーの二人とも威嚇している。とにかくスタイロムに敵認定されないことが優先っ!
「スタイロムさん!こいつはドッドファミリー!能力は……」
「スタイロムぅ!お前とはやりたくねぇから、こいつをくらえ!」
「ぬぅっ!?」
スティンキーが粘着液の付着した銀テープを彼に投げつける。
スタイロムは危なげなく、腕でガードしていたが関係なかった。しっかりとネバネバの拘束に捉われてしまった。
その隙をついてスティンキーは裏口へ走った。扉をくぐる前に顔だけ振りかえる。
「ジョークボーイ!この名を忘れるな!オイラはドッドファミリーの鉄砲玉、【蜘蛛男】・スティンキーだ!また会おうぜ」
奴が出ていき、すぐにバイクらしきエンジン音が遠くなっていった。
終わった……今回ばかりは本当に死ぬかと思った。
安堵から腰が抜けて座り込んでしまう。
「ふう、あぁ~!俺、生きてる……」
「少年よ、安心しているところ悪いが、事務所で事情を聞かせてもらおう」
「あ、はい……ですよね……」
「その前にこのベトベトを取ってくれないか?無理に吹き飛ばすとユニフォームまで破れてしまいそうでな」
気持ち悪い感触に耐えながら粘着液を取り、彼とともに事務所まで向かった。
店に行った理由とスティンキーとの一連のやり取りを伝え、俺の無実を証言した。
後から聞いたところ、店に店員はおらずスティンキーが店員を殺したという証言は立証できなかった。
また、同時多発的に理髪店襲撃がメラニンシティのあちこちで起こっていたという。
事態を収束させるべく、しばらく能力治安官が忙しくなることを聞き、追い出されるように事務所を後にした。
俺は風に揺れている前髪を触る。少し短くなった髪はこの街の行く末に似てる気がした。




