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1.開幕

癖を詰め込みました、お口に合ったら嬉しいな♡

「どうも、またのご利用おまちしてま~す」


お礼(チップ)も払わずにドアを閉めた客に、中指を立てる。

はぁ、あと3件も配達が残ってる。自転車でこの大都会を走り回るのも楽じゃない。


見上げれば高層ビルの隙間から曇った空が見える。

空色の美しい髪をなびかせて飛行する男を傍目に、ペダルを漕ぎだす。

ブラウンの癖毛に汗を滴らせて、回転する腕でコンクリを捏ねる工事作業員たちを通り過ぎて次の配達先へ向かう。


人間が能力を使うとき、代償を伴う。

能力を使う度に髪が短くなっていき、限界を超えると抜け落ちる。

だから、美しく長い髪は上流階級のステータスになってる。逆に短い髪は弱い能力で、毎日能力(それ)で稼いでる労働者の象徴。例外的にハゲ……いやスキンヘッドは国のために能力を使い切った者として労わられる。ようは『敬老の心』ってやつだ。


この大都市[メラニンシティ]にあこがれて、田舎から出てきたけど正直、後悔してる。

ここじゃ強い能力を持ったやつが金を稼いで上に行き、そうじゃないやつはお察しの通りだ。

そう俺もこの街じゃ下層の人間、底辺配達員のハコス。ハコス・ビョーンだ。


配達物を受け取りに、バーガーショップに入る。

オレンジ短髪の中年男性がカウンターの向こうから俺を呼んだ。


「おうハコス。相変わらず変わった髪色だなぁ?あ、これ注文の品な。聞いたか?北エリアでまた三本坊主どもが暴れたらしいぞ」


「うるせぇよ、ボブ。三本坊主ってドッドファミリーか……マジかよ、これ北エリア付近の配達なんだけど」


「お気の毒だなぁ!まぁ、かち合っても髪を抜かれるだけで命までは取られねぇだろ」


「髪抜かれたら死んだも同然だろうが!あ~めっちゃ行きたくね~」


「大好きな仕事だろ?せいぜい気をつけな。オレはお前の光る頭皮を見たら3か月は笑っちまうからよ!ぶははは!!!」


うるせぇ!文句をいいつつ品物をバッグに詰めて店を出る。


ドッドファミリー。北エリアを根城にしてるマフィアで、坊主頭に3本の剃りこみを入れた嫌能者どもだ。目的はわかってないが、能力者の髪を抜き去る「髪狩り」事件を街のあちこちで引き起こしてるって噂のやべー奴ら。

出会っちまったら、どうしよう。

俺の能力で逃げられるとは思えねぇんだよな……


そんなことを考えちまったからなのか?俺がこんな事件に巻き込まれたのは。

過去に戻れるなら、過去の俺をぶん殴ってでもこの仕事は受けさせない。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「髪狩りだぁぁ!!!」


そんな気はしてたけどさぁ……

悲鳴を上げながら向かってくる人波を建物の陰に隠れてやり過ごす。

この先はでかい橋があったな、あいつら橋の上で事件を引き起こしたのか?

この橋渡らないと、次の橋まで距離あるんだよな……


ちらりと現場をのぞいてみると、やはり坊主頭の集団が怒号をあげて暴れていた。


「そこまでだっ!!!」


力強い声が響いた。


逃げまどっていた群衆が一斉に見上げ、口々に彼の名を呼ぶ。


「ファビュラスマーーーンっ!!!」


高層ビルの屋上から、金色に輝く髪をなびかせて、筋骨隆々の男性が橋に降下してきた。

土煙をあげ、片膝をつくように着地したそいつがゆっくりと立ち上がる。

胸にでかでかと能力治安官のライセンスマークを入れたぴちぴちコスチューム。高い鼻と彫りの深い目元、メラニンシティの善良な市民の味方(ヒーロー)

民の歓声を背に立つこの男こそ、最高能力治安官(ファビュラスマン)・スタイロム。


「マフィア諸君、この私が来たからには、もうお仕舞いだ」


「図に乗るなよっ!能力に恵まれただけの恥知らずが!!」


「羨ましいのか?止めておけ、男の嫉妬ほど見苦しいものはない」


「うるせぇ!!くたばれぇ!!」


三本坊主が一斉に彼に向けて銃を発砲する。

四方から弾丸を浴びせられる彼の姿に、民衆は思わず目を伏せる。


「きゃあぁぁ!!!ファビュラスマン……っ!」


次々と彼を心配する声が漏れる。だが、彼にそんな心配は無用だった。

一斉に浴びせられる弾丸の雨を避けることもなく、平然と受けながら悠々と歩みを進める。

まったくダメージを受けた様子もない。


徐々に、三本坊主たちの銃のピンが空撃ちしだす。


「くそ、リロードを……」

「ふむ、終わりか?では、次は私の番だ」


ファビュラスマンは拳を握り、全力で振りぬいた。華美な金髪が風に揺らめく、日の光を反射するように輝いて毛先が少し縮んだ。


「ファビュラス・パンチだ……ふんっ!!!」


彼の前方に爆風が吹き、三本坊主どもが塵のように吹き飛ばされる。

それを見た観衆は熱狂する。口々に彼を称え、称賛を浴びせる。

無表情のまま手を挙げてファンサービスする奴の様子を眺めながら、己の不運を嘆く。


「とっとと退いてくんねぇかなぁ。橋、渡れねぇじゃん……」


今の俺の不機嫌は嫉妬だ。三本坊主が言っていた『能力に恵まれただけ』。奴らは嫌いだが、その思いは俺にも多少ある。

刻一刻と配達予定時間が伸びる。

俺は群衆が散るまでの間、ただそれを見ているだけだった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


十数分のアピールタイムが終わって人がまばらになった。

ようやく橋を渡って配達に戻る。こんな時間がかかってちゃチップは期待できねぇな。


ブツブツ愚痴を零しながらペダルを漕ぐ。

北エリアに近づくほど、長髪の人間は少なくなる。自ら能力を捨てた嫌能者もそうだが、警察に捕まって髪を剃られた犯罪者、病気で髪を剃らざるを得ない者とそれを治療する医者もこのエリアに多い。

あとは珍しいけど無能力者もな。つまり、メラニンシティに馴染めなかった奴らがほとんどだ。


こんなエリアへの配達じゃ、依頼者は2択。

金持ちの病人か医者、もしくはワルの偉いほうの人間か……住所が病院への配達だから多分、前者だけどな。


「ーーー……ーーっ!」


勘弁してくれよ。一日に何度も事件に合うほど、この町の治安は終わっちまったのか?

雑居ビルの隙間、ごみが散乱している向こう側に人影が見えた。

あたりを見回す。

人気はない。もちろんファビュラスマン(スタイロム)は去っている。呼んでもすぐには来ない。


もうすでに配達予定時刻は過ぎてるし。

もしかしたら被害者が依頼主に遅れた理由を言ってくれるかもしれないし。

ただ確認するだけ、何もない可能性だってある。


色々理由が脳内にあふれるが、結局のところ興奮していたんだと思う。

ヒーローがヴィランを倒す現場を見て、自分にもできるんじゃないかと妄想してしまった。

何の力もないのに、ライセンスも覚悟もないのに、出来心で路地裏に一歩、また一歩と足を進めてしまったんだ。


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