表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/27

馬車の外は戦場?

馬車の外が、やけに騒がしい。


怒号。

金属がぶつかり合う鈍い音。

馬の嘶き。


……これ、もしかしなくても戦場?


私、平和な世界に転生したはずじゃなかった?


腕を掴まれたまま、車内で完全に硬直していた、その時――。


 


「リナ! 無事か!?」


 


聞き慣れた声が、雷鳴のように車内へ轟いた。


次の瞬間。


バァン! と鼓膜が震えるような音を立てて扉が開かれる。


そこに立っていたのは、肩で激しく息をするルシアンだった。


 


乱れた銀髪が額に張り付き、


紫の瞳は、見たこともないほど焦燥と怒りに染まっている。


 


そして彼の視線が、私の上に覆いかぶさり、腕を強引に押さえていた“花びら青年”を射抜いた。


 


「今すぐ、その手を離せ」


 


低く、地を這うような声音。


それは“お願い”ではない。


逆らえば即座に塵にされると理解させる、命令だった。


 


青年は、面白くなさそうに肩をすくめる。


「無粋な男だ。いいところだったのに」


「この馬車は既に騎士団が完全包囲している。

 大人しく投降しろ。

 ……それとも、今ここで僕に細切れにされたいか?」


 


ルシアンの周囲の空気が、ひび割れるような魔力の圧を放つ。


青年はゆっくりと、私へ視線を落とした。


 


ぞくり、と背筋が凍る。


 


「リナ嬢。また後ほど」


いや、後ほどとか本当に要らないから! 間に合ってます!


 

青年は、案外あっさりと馬車を降りていった。


入れ替わるように、ルシアンが乗り込んでくる。


 


そして次の瞬間。


私は骨が軋むほど、強く抱きしめられた。


 


「よかった……本当に……無事で……っ」


 


震えているのは、私ではなく彼の声だった。


あんなに強引に扉を蹴破ったのに。


私を抱く腕は、壊れ物を扱うように繊細で、熱い。


 


「ルシアン……ありがとう。助かったわ」


 


本当に、危なかった。


彼の腕の温もりに触れて、ようやく理解する。


もし、彼が来てくれなかったら――。


 


安心できる場所だなんて、思ってもみなかった。


けれど、ルシアンの腕の中は驚くほど静かで、温かかった。


 


その後。


颯爽と現れた騎士団により、花びら青年は拘束――


ではなく。


厳重注意。


 


……えっ。誘拐未遂だよ?


どうやらあちらも高位貴族の息子らしく、“政治的配慮”とやらが働いたらしい。


貴族社会のコンプライアンス、どうなっているの。


 


私たちは重苦しい沈黙のまま帰路についた。


けれど、握られた手だけは、屋敷に着くまで一度も離れなかった。


 

「リナ! よくぞ……無事で……!」


 

邸へ戻ると、泣き腫らした母に壊れる勢いで抱きしめられた。


「心配した。もう大丈夫だ。先方には、我が家の名にかけて徹底的に抗議した」


父の声は静かだが、その奥で怒りが煮え滾っている。



「ルシアンが、私を守ってくれたんです」



振り向くと。


ルシアンは、かつてないほど険しい顔をしていた。



「ルシアン。娘を救ってくれて、心から感謝する」


「……いえ。当然のことをしたまでです」


 


短く、硬い返答。


父とルシアンは、真剣な面持ちのまま執務室へと向かっていった。


……あの空気。


何か、大きな決断が下されそうな気がする。


 


私は母に連れられて治療室へ。


腕には、はっきりと指の形をした打撲痕が残っていた。


治癒師と医務官による厳格な確認。


怪我の有無。


魔力汚染の痕跡。


そして――。


 


「……問題ございません。リナ様は清らかなままでいらっしゃいます」


 


乙女の確認。


この世界の貴族子女にとって、重要な事項らしい。


何もなかったのは当然だけれど。


「結果、乙女」と太鼓判を押されるのは、

前世の感覚だとちょっと……かなり、恥ずかしい。


 


「怖かったわね。今日は温かいお湯に浸かって、ゆっくり休みましょう」


「はい、お母さま」


 


侍女に手伝われながら湯船へ沈む。


温かい湯が、強張った身体をゆるめていく。


 


けれど。


ふかふかのベッドに潜り込んだ瞬間。


遅れて、恐怖が押し寄せた。


 


もし、ルシアンが来てくれなかったら。


私は知らない男の妻にされ、自由も、尊厳も、

この甘やかされ生活も、全部奪われていたかもしれない。


 


……こんな美少女を拉致監禁(未遂)とか、本気で許せない。


恐怖と怒りが混ざり合い、心臓の音がやけにうるさい。


なかなか眠れない。


 


「あ……」


 


そういえば。


ルシアンに、ちゃんと別れの挨拶もできていない。


あんなに震えて、必死に私を助けてくれたのに。


 


明日も、きっと来てくれる。


その時は、ちゃんと目を見て「ありがとう」と言おう。


 


そう思いながら。


私はようやく、深い意識の底へと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ