釣書がよく届くようになった。
「……想定外だ」
父が額を押さえる。
神殿で“少し光った”だけのはずだった。
少し。
ほんの少し。
……いや、だいぶ多めだったかもしれない。
あの日。
私はどうやら、神官たちから祝福の言葉を雨のように浴びせられていたらしい。
祝福の効果って、なんでしょうね?
効果その一。
お見合いの釣書が大量に届く。
効果その二。
ホイホイ能力、なぜか強化。
効果その三。
魔力の保有量、なぜか爆上げ。
正解は。
……全部だ。
母と茶会に参加すれば、子息たちがこぞって声をかけてくる。
他家の護衛騎士や侍従から“個人的”な贈り物が増える。
そっと触れられることも、増えた。
祝福って、そういう効果ある?
今日は、この茶会で顔を合わせた青年がやたらと絡んでくる。
「髪に花びらが」
取る。
「肩に花びらが」
取らなくていい。
「段差が。お手をどうぞ」
どこに。
私の周囲、花びら付きすぎ問題。
段差もない。
無難に対応。
一歩下がる。
詰められる。
三歩下がる。
さらに詰められる。
視線が、ねっとり絡みつく。
(あ、これだめなやつ)
その時。
「リナ! ここにいたのか。ほら、行くぞ。こっちだ」
ルシアンが現れた。
手を引かれ、半ば強制的に休憩室へ。
扉が閉まる。
「これからは僕の目の届くところにいろ。わかったな?」
声が少し荒い。
私は素直に頷いた。
「うん。本当に助かった。ありがとう、ルシアンくん」
彼は視線を逸らし、咳払いする。
「……声を荒らげて悪かった」
その瞬間。
ぐうぅぅぅ。
静かな室内に響く、私のお腹。
最悪のタイミング。
ルシアンの肩が震える。
「……ちょ、ちょっと待ってろ」
出て行き、戻ってきたときには、今の私が好きな軽食を抱えていた。
“今の私が好きな”。
そこが大事。
「ルシアンくん、できる男子だ!」
思わず拍手。
彼はまだ笑っている。
どこか安心したように。
祝福後、発動頻度が上がったホイホイ能力。
ルシアンは、そんな私を見つけては必死で守るようになった。
なんて心強い幼馴染。
……と、その時は思っていた。
そして、ある日。
茶会の帰り。
母と馬車へ向かう途中、声をかけられた。
母が立ち止まる。
「少し話してくるわ。先に馬車で待っていてくれる?」
馬車乗り場。
あれ?
いつもの御者じゃない。
「体調不良とのことで交代いたしました。どうぞお乗りください」
我が家の家紋。
来たときと同じ馬車。
疑う余地は、ない……はずだった。
乗り込む。
扉が閉まる。
がちゃん。
馬車が動き出す。
……あれ?
「あの。お母さまがまだ乗っていません」
「存じております。お先にお嬢様を送り届けます」
窓の外の景色。
違う。
我が家の方向じゃない。
「どちらへ向かっているのですか?」
「お嬢様の嫁ぎ先でございます」
は?
嫁ぎ先?
到着したのは、もちろん我が家ではない。
これは。
タイミングを見て逃げるしかない。
ドアに手をかける。
がちゃん。
開かない。
そりゃそうだ。
誘拐だ。
私は今、誘拐されている。
とりあえず。
「たすけてー!!!」
叫んでみる。
がちゃり。
扉が開く。
差し出される手。
「今日は、素敵なお茶会でしたね」
あ。
花びら青年。
私、思考をフル回転させる。
「……申し訳ございません。一度、日を改めさせていただけますか?」
最大限の丁寧回避。
青年はにこやかだ。
「もちろんです。まずは我が家でお寛ぎいただいてから」
話が通じていない。
馬車から降りたら終わる。
本能が告げる。
頑なに動かない私。
ついに青年が痺れを切らす。
するりと馬車に乗り込んできた。
近い。
「一目惚れです。どうか、私の妻になっていただきたい」
ひぃぃぃ。
怖い。
無理。
「両親を通してください。それと、淑女の馬車に無断で入るのはおやめください!」
精一杯の抵抗。
「問題ありません。君は妻になるのだから」
腕を掴まれる。
恐怖が、背筋を走った。
その瞬間。
外が、急に騒がしくなった。




