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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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5/23

リナと名乗る幼馴染。

あの日。


僕の目の前で、リナが血に染まった瞬間から。


世界は、色を失った。


ただ、立ち尽くすことしかできなかった。


伸ばした手は届かず。


胃の奥が焼けるような無力感。


喉を掻き毟りたくなるほどの恐怖。


このまま、失うかもしれない。


その可能性だけが、脳裏にこびりついた。


助かったと聞いたとき。


安堵で膝から崩れ落ちそうになった。


会いたかった。


すぐに。


今すぐに。


けれど。


「記憶喪失」


その診断が、僕を足止めした。


――そして。


ようやく再会した彼女は。


「リナ! やっと……やっと回復したのか!」


駆け寄った僕を。


困惑したように、見上げた。


「あ……えっと、初めまして……?」


時間が、止まる。


「……そうか。本当に、記憶喪失なんだね」


違う。


目の前にいるのは。


僕の知っているリナではない。


「ルシアンだ。リナ、君の幼馴染だよ」


「幼馴染、さん……その、また仲良くしてくれますか?」


他人行儀な距離。


丁寧な言葉。


「僕のこと……本当に、何も覚えてないの?」


「ごめんなさい……」


伏せられた視線。


空気が、ひりつく。


魔力の流れ。


纏う色。


波長。


すべてが、違う。


まるで。


リナの姿をした、別の誰か。


「いいよ。じゃあ、思い出せるように、これからいっぱい一緒にいよう。ね?」


そう言いながら。


胸の奥で、何かが静かに軋んだ。


「うん! ありがとう、ルシアンくん」


くん。


その響きに、わずかな違和感。


――その日から。


僕は“観察”を始めた。


観察という名目で、傍にいることを選んだ。


調べれば調べるほど。


違和感は確信へ変わっていく。


好きだった菓子を出しても、首を傾げる。


苦手だった野菜を、平然と口にする。


笑い方。


仕草。


歩幅。


すべてが、違う。


「ルシアンくん! 見て! すっごく大きな鳥が空を飛んでるよ!」


「……あれは鳥じゃない。ワイバーンだよ」


「わお! ファンタジー!」


屈託のない笑顔。


はしゃぐ声。


知らない反応。


「これ、すごい!」


「……魔力を通せば飛ぶ玩具だよ」


目を輝かせる。


無邪気だ。


こんな顔を、リナはしただろうか。


一緒に過ごす時間が増えるたび。


僕の中で凍っていた“リナ”が。


目の前の“彼女”に、静かに塗り替えられていく。


もし。


もし彼女が“治って”しまったら。


今の彼女は、どこへ消える?


胸が、ざわつく。


――夕方。


忘れ物を取りに邸へ戻った時だった。


静まり返った廊下。


開いた扉の隙間から、低い声が漏れる。


「いつまで、あの身体に宿ってくれるのかわからない……」


「二度と、娘を死なせたくないんだ」


「魔術師へ相談すべきか?」


「駄目よ! リナの身体を研究者たちに奪われてしまうわ。……二番目のリナも、どうなるか……」


宿っている。


二番目の、リナ。


背中を、冷たいものが這い上がる。


脳裏に浮かぶのは。


先ほどまで隣で笑っていた顔。


無防備な笑み。


はしゃぐ声。


あの、屈託のない目。


胸の奥で、何かが静かに決壊した。


守るべきは。


“戻るかもしれない誰か”ではない。


今、ここにいる彼女だ。


「……今のリナを守らなくちゃ」


零れた声は、低い。


思った以上に、低い。


もし彼女が。


この身体に宿る、別の魂だというのなら。


消える可能性があるのなら。


僕は。


何を優先する?


答えは、もう出ている。


このとき。


僕が思い浮かべていたのは。


幼馴染のリナではなかった。


今、笑っている彼女だった。



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