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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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私の騎士

リナお嬢様の護衛となったその日から、

自分は一目見たその瞬間に、お嬢様の可愛らしさに胸を撃ち抜かれていた。


くるくる変わる表情。弾むような声。

喜怒哀楽を素直に表現されるお嬢様は、この貴族社会においてあまりにも天真爛漫で、眩しかった。


お茶会の席では、傍に付き添うことができない。


そわそわとして落ち着かず、

扉の外で待機する時間が、永遠のようにもどかしく感じられた。


あの日、お嬢様が誘拐された日。


自分はお傍で護衛できず、お嬢様を恐怖の底へ突き落とす結果を招いてしまった。


相手は高位貴族ゆえに

「厳重注意」で済まされた、あの不条理な事件。


歯痒かった。


もっと鍛えて、何があってもお嬢様を護り抜ける力を手に入れなければと、心に誓った。


そして、ご家族との湖畔でのピクニック。


不思議なことに、野生の動物たちがお嬢様に懐いていた。


清らかな心を持つお嬢様だからこそ呼び寄せられる奇跡。


その姿は、まるで天から降り立った天使のようだった。


自分はお嬢様の護衛。


常に傍でお嬢様を護る者。


それだけで十分だと思っていた。


初夏。


避暑地へ赴かれたお嬢様に付き従い、我々は高原の洋館へとやってきた。


探検だと言って洋館を散策されるリナ様。


「……少しぬかるんでいます。滑っては大変だ」


自分はそっと、紳士的に手を差し出した。


「ああ、本当だ。少しぬかるんでるわね。ありがとう」


お嬢様は疑うこともなく、その手を自分の手に添えてくださった。


お嬢様が、自分の手を取ってくださった。


にこやかに微笑み合い、他愛のない世間話をしながら、その歩調に合わせてゆっくりと歩く。


ぬかるみは、ほんの数歩ですぐに越えた。


「……もう大丈夫よ。そろそろ離してもらえる?」


問いかけられ、自分の完璧な笑みが一瞬だけ固まった。


なぜ? 手を離す必要がある?


……あ、そうだ。自分はお嬢様の護衛だ。


「……っ、失礼いたしました。かしこまりました」


そう言いながらも。


離れがたく、その柔らかで温かな感触を、最後まで指先に覚えておきたくて……。


離れ際、自分は無意識に、きゅっとお嬢様の指先を。


――壊れ物を掴むような強さで、握り込んだ。


しん、と高原の空気が止まる。


「あの……?」


その瞬間。


逃げ場のない悪寒が、鋭いナイフのように自分の背筋を走り抜けた。


殺気だ。


弾かれたように目を見開く。


「申し訳ございません! 私は……っ、私は何を……!」


お嬢様を護衛する自分が、私情に気を取られるなどあってはならない。


即座に手を離し、十分な距離を取る。


周辺を、狂ったように警戒した。


だが、先程の殺気は霞の中へ消えたように存在せず、ただ森の奥に注意を向けるしかなかった。


翌日。川釣りにて。


大量の川魚とワイルドボアを仕留め、お嬢様は大変に楽しそうにされていた。


肩に乗っているリスに、一生懸命話しかけているお嬢様。


「ね? 君もそう思うよね?」


「きゅ!」


「……え、意思疎通できる? 右手上げてみて!」


「きゅ!」


「じゃあ、まわってみて?」


「きゅ!」


我慢できなかった。


反則的に可愛らしいその姿。


「可愛いですね、リナ様」


……お嬢様が、あまりにも可愛すぎる。


「このもふもふ感が最高なのよ」


その笑顔を、自分だけに向けられたら、どんなにいいか。


喜んでいるお嬢様の姿が、胸が苦しくなるほど愛おしかった。


もしかしたら、この避暑地で、もっとお嬢様と心を通わせることができるのではないか。


そんな淡い期待が、愚かにも胸に湧く。


だが、その日の夕刻。


お嬢様の婚約者が現れた。


ルシアン様。


誘拐未遂のあの日、お嬢様を救い、婚約者の座を射止めた幼馴染。


自分だってお嬢様を救った一人だったのに……。


また、ただの護衛として、遠く控える位置に戻るしかないのか。


翌日。上流での川遊び。


陽光が水面に反射し、きらきらと白く弾けている。


お嬢様は靴を脱ぎ、そっと素足を水に浸した。


「冷たっ……! でも、最高に気持ちいい……」


見てはいけない素足を見てしまった。


熱くせり上がってくるものがあった。


タオルをお渡しした際、「ありがとう」と、お嬢様は自分へ笑顔を向けてくださった。


その瞬間。


世界の温度が、一気に氷点下まで叩き落とされた。


婚約者のルシアン様が、自分を射抜かんばかりに釘を刺す。


「――護衛は、護衛らしく分を弁えて控えていろ」


低く、冷え切った、地を這うような声。


「ちょっとルシアン! 私の騎士にそんな尊大な態度はやめてくれる!?」


リナ様が、庇ってくださった。


「……『私の』……騎士……?」


お嬢様が今、私の、と仰った。


私の騎士だと。


その直後だった。


森の木々が悲鳴を上げるようにざわめき、鳥たちが空を覆い尽くす。


地鳴りと共に現れた、巨大なジャイアントベア。


「ルシアン! リナを守って即座に邸へ戻れ!」


主人の鋭い号令。


そして、婚約者の声。


「俺も加勢します。リナ、下がっていろ」


「え!? ちょっと!? 私はとりあえず全力で逃げればいいのよね!?」


「リナ様! こちらへ!」


侍女と連携し、瞬時にお嬢様を囲み、防衛陣形を組む。


連携により容易く熊を仕留めることができた直後。


お嬢様は、自分の目の前で力なく倒れ伏した。


崩れゆくその身体を、必死に抱きとめようと手を伸ばした。


だが――その身体を抱きとめたのは、自分の腕ではなかった。


それから数日。


お嬢様は高熱に浮かされたまま、目を覚まさない。


自分は、ベッドへ近寄ることさえ許されないまま、扉の外でひたすら回復を祈るしかなかった。


お嬢様を失いたくない。


自分はお嬢様を愛している。


お嬢様が目を覚ました時には、この胸に秘めた熱い思いを、すべて伝えよう。



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