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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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失いたくない人。

リナが避暑地へ向かって数日。


俺のいない空白の時間が、静かに思考を侵食する。


なぜ、俺を誘わなかった。


婚約者だろう?

普通なら「一緒に行こう」と一言あってもいいはずだ。


リナのことだ。


俺が渡したポーションを、避暑地へ持って行っていない可能性が高い。


「チッ」


無意識に舌打ちが零れる。


俺が「強壮剤」とだけ伝えている、魂と肉体の魔力回路を安定させるための秘薬。


それを彼女が一度も服用していないと察した瞬間、心臓の奥に鋭い亀裂が走るのを感じた。


嫌な予感がする。


理屈ではない。


ただ、本能に近い直感が、警鐘を鳴らし続けていた。


――間に合わなければ、取り返しがつかないことになる。


俺は即座に避暑地へ向かった。


中継所で馬を乗り換え、肺が焼けるような速度で魔力補助を使い続け、可能な限りの時間を削り取って高原を駆けた。


到着後、埃を払う間すら惜しんでリナの部屋へと向かう。


ノックをする。


応答はない。


もう一度。


それでも、返事はない。


最悪の事態が脳裏をよぎった、次の瞬間。


扉が開いた。


彼女と、目が合った。


「――俺を置いていくなんて、ひどい婚約者もいたもんだよね?」


再会の喜びを口にする間もなく。


バタン!!


目の前で扉が、乱暴に閉じられた。


……待て。


いくら俺でも、今の仕打ちはさすがに傷つく。


「今のは流石に傷つくぞ、リナ! 扉を開けてくれ」


沈黙。


「……開けてくれないなら、魔法で鍵ごと消し飛ばしてもいいかな?」


冗談だ。


……いや、半分は本気だった。


それほどまでに、彼女が無事か、この目で確かめたかった。


「ここ、王都から離れた避暑地なんだけど!? なんでいるのよ!?」


「婚約者が避暑地に行くと聞いて、追いかけてこない理由がどこにある?」


理論上、当然の帰結だ。非の打ち所はないはずだ。


「……とにかく! 今は家族水入らずの大事な時間なの。帰って!」


家族水入らず、か。


その言葉の排他的な響きに、胸の奥が微かに疼く。


「ならば問うが。リナ、俺は何だ?」


「……婚約者、でしょ」


「なら、家族候補だ。……いや、家族と同義だな」


俺と彼女の距離に、他人が介在する隙間などない。


「開けろ、リナ。別に、怒ってはいない」


呼吸を整えて、付け足す。


「――今は、な」


カチャ、と乾いた音がした。


扉がようやく開き、彼女の姿が露わになる。


俺は瞬時に、その顔色から生命維持の状態を解析した。


魔力循環、わずかに不安定。


瞳の焦点、微細な揺れ。


――やはり、無理をしていたな。


「で? 私の様子を見に来ただけなの?」


「高原で、不穏な気配があった」


それは比喩でも、単なる嫉妬でもない。


「俺のいない場所で、君に触れようとする者がいる。……それは、俺が許可していない」


「ちょっと待って、ルシアン。許可って何よ」


「君の安全に関わるすべての事象だ」


安全。


そうだ。


リナという存在は、俺が守らなければならない。


「ねぇ、婚約者の役割って、そういうものだっけ?」


「君とニコイチになる役割だろう?」


「ニコイチ……?」


「片方が不安定なら、もう片方が補い、固定する。常に同じ座標に存在する。極めて合理的だろう」


合理的であることは、制御不能な感情よりも、論理で構築された支配の方が、よほど信頼に値する。


「……私に拒否権は?」


「あるよ」


一瞬だけ、慈しみを込めて目を細める。


「だが、それが採用される保証はどこにもない」


君の選択が、君自身の存在を損なうというのなら。


俺は、君の自由すら排除する。


「……じゃあせめて、川釣りくらいは普通にさせて」


「次回は俺もやる。君の隣で、釣り竿を構えよう」


それは甘い恋人の誘いではない。


「リナ。俺は、君を失う可能性を、この世界から一つ残らず排除する」


俺の決意に、揺らぎはない。



川釣り当日。


俺は常に彼女の半歩後ろに立っていた。


視界で森を警戒し、意識のすべてをリナの魔力へと注ぐ。


揺れている。


昨日よりも、さらに明確に。


甘く、濃く、すべてを狂わせるような引き寄せの波動。


森の奥から、気配が濃くなっていく。


何かが、惹かれている。


いや――。


“惹かれている”のではない。


彼女の魂に“呼ばれている”のだ。


まずい、溢れ出している。


「リナ! 俺を見ろ!」


「わっ! なになに!? 急に肩を掴まないでよ!」


「いいから深呼吸をして、俺だけに集中するんだ。他を視界に入れるな!」


外界との同調を強制的に断ち切れ。


この世界の基準を、俺という個体だけに絞り込め。


「スー、ハー、スー、ハー……」


数回の呼吸。


ようやく彼女の波長が整う。


「いい……。そのままだ。俺だけを見ていろ」


その瞬間、耐えかねたように森が悲鳴を上げた。


鳥たちが空を埋め尽くし、暴風のような圧が襲いかかる。


ズシン。ズシン。


地鳴りと共に現れたのは、巨躯を持つジャイアントベア。


「ルシアン! リナを守って即座に邸へ戻れ!」


義父の鋭い号令が飛ぶ。


「俺も加勢します。リナ、下がっていろ」


即座に答える。


最優先事項は、排除だ。


彼女の視界から、すべての脅威を抹殺する。


だが。


本当の問題は、目の前の熊などではない。


この熊は、単なる結果に過ぎない。


真の原因は――。


混乱の極地で、俺は確信する。


「……やはり、そうか」


リナという器から漏れ出る魔力。


甘美で、濃密で、全生物を狂わせる抗いがたい魅力。


それが森を、魔物を、無自覚に招き寄せている。


しかも、その波動は日に日に強大になっている。


このままでは、森の主だけでは済まない。


人も、魔物も、この世界のあらゆる貪欲な存在が、彼女を喰らおうと集まってくる。


どうすればいい。


隔離か、封印か、あるいは契約か。


それとも、魂そのものの固定か。


リナ。


君を守るという目的が。


君をどこにも行けないように閉じ込める方法と同義になるのだとしたら。


俺は、どこまでその深淵に踏み込めるだろうか。


……いや。


迷う必要などない。


失うくらいなら、俺は喜んでその手を汚そう。


たとえ、この世界の法則ごと書き換えてでも。


君を、俺の隣に繋ぎ止めてみせる。



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