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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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19/23

避暑地で婚約者も一緒に

翌朝。


避暑地の爽やかな空気と共に目覚める――はずだった。


しかし、私の視界に最初に飛び込んできたのは。


窓際に佇む、長く、美しい黒い影だった。


「……なんでいるの、そこに」


「避暑に来たと言ったはずだが。忘れたのか?」


さらりと返される。


ルシアンが躊躇いなくカーテンを開け放つと、朝の光が部屋いっぱいに溢れた。逆光の中に立つ彼は、銀髪が淡く煌めき、まるでこの洋館の真の主であるかのような静謐を纏っている。


……いや、違う。ここ、私の部屋。


「ここ、私の私室なんだけど」


「知っている」


「知っていて、無断で入っているのね?」


「安全確認だ。不備はない」


安全確認という名の不法侵入である。


ベッドから半身を起こした私を、彼は冷徹な紫の瞳でじっと観察する。


「顔色は良好。脈拍、やや上昇。瞳孔の反応も昨夜より僅かに鋭いな」


「起き抜けに婚約者が仁王立ちしてたら、誰だって動悸くらいするわよ!」


「……興奮状態も正常範囲内だな」


メモを取るな。

これ見よがしにノートを広げるな。

朝一番から婚約者を被験者扱いするな。


「ねぇ、せめてノックくらいしてよ」


「した。三回ほど」


「嘘でしょ。私、一回も聞いてないわよ」


「返答がなかったから入った。緊急事態の可能性を考慮しての判断だ」


それは私が熟睡していただけだ。


完全に「ルシアンの正論」という名の鈍器で殴られている。


朝食の席。


驚くべきことに、両親は当たり前のような顔でルシアンの存在を受け入れていた。


「遠路ご苦労だったな、ルシアン君。馬の交代も迅速だったと聞いたよ」


「いえ。すべてはリナの療養のためですので。当然の務めです」


父が満足そうに頷き、母が優雅に紅茶を口にする。


「ふふ、若いって素晴らしいわね。愛の力は距離をも凌駕するのね」


何がだ。


昨日の今日で、完全に「公認の同行者」という空気が出来上がっている。


私は左右を両親に固められ、正面にはルシアンという鉄壁の包囲網の真っ只中で、黙々とパンをかじるしかなかった。


「今日は、川のさらに上流へ行こうと思っている」


父の提案に、私の瞳が思わず輝く。


「いいですね! 昨日よりもさらに水が澄んで、絶景のはずだわ!」


「俺も同行する」


即答。


「……川釣りだよ? 危険なんてないからね!分かってる?」


「わかっている」


その言い方が、まるで「危険は排除済みだ」とでも言いたげで。


川辺。


陽光が水面に反射し、きらきらと白く弾けている。高原の風は軽く、森の香りを含んでいて、深呼吸するだけで胸の奥が澄んでいく。


私は靴を脱ぎ、そっと素足を水に浸した。


「冷たっ……! でも、最高に気持ちいい……」


川の流れは透明で、指先を撫でるように通り過ぎていく。水底の小石が淡く光り、流れに揺れる水草が静かに揺れていた。


「体温低下速度、正常。皮膚の魔力伝導率も安定している」


「測るな。浸かってるだけなんだから」


いつの間にか、彼は隣にいる。


呼吸が届くほど隣に。


距離は常に半歩。


これが彼の言う「ニコイチ理論」の実践らしい。物理的に離れるという概念が、彼の辞書から消えている。


川魚たちは、今日も今日とてやる気満々で私の足元に押し寄せてくる。


「ねぇ、これ絶対におかしいわよね? 魚が足に突撃してくるんだけど」


「異常だな」


あっさり同意。


「やはり高原の魔力濃度が、君に呼応して――」


「頼むから、一度くらいロマンチックな休暇を楽しませて!」


その時だった。


背後に広がる深い森の奥から、微かなざわめきが走る。


ほんの一瞬。


山の空気が、鋭い針で刺したように張り詰めた。


ルシアンの視線が、ゆっくりと、しかし確実に森の奥へと注がれる。


私の肩に添えられていた彼の指先に、僅かに力がこもった。


「……ルシアン? どうかしたの?」


「……何でもない」


即答。


だが、その紫の瞳は確実に何かを捉えていた。


風が止む。


水面の反射が、一瞬だけ鈍くなる。


森の奥で、見えない何かが、こちらを測るように息を潜める。


穏やかに微笑むルシアンの背後で、冷たい殺気が音もなく膨れ上がる。


それは風に溶け、森に溶ける。

だが、確かにそこにある。


私はまだ、それを高原の冷たい空気のせいだと信じていた。



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