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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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14/23

偶然いっしょになる人。

湖畔での動物大集結事件から数日。

私はすっかり日常に戻っていた――戻っていた、はずだった。


「今日は街へ出ましょう。気分転換も必要よ」


母の一言で、久しぶりに屋敷の外へ出ることになった。

護衛、侍女、そして過剰なほどの警戒態勢。

いわゆる「過保護三点セット」完備である。


街は春の陽気に満ちていた。

焼き菓子の甘い匂い、花屋の鮮やかな店先。

平和だ。今度こそ平和だと、信じたい。


「リナ様、お足元にお気をつけください」


侍女の声に頷きながら歩いていると、ふと視線を感じた。

粘りつくような、静かで、それでいて深い視線。


吸い寄せられるように振り向いた瞬間、私は「彼」と目が合った。


「あ……」


黒髪の青年。ルシアンと同じくらいの年頃だろうか。

整った顔立ちをしているが、どこか印象が薄い。

人混みに紛れれば一瞬で見失いそうな、奇妙なほど希薄な存在感。


彼は、ほんのわずかに首を傾けた。


「……失礼。驚かせてしまいましたか」


声は凪いだ海のように穏やかだ。


「いえ、大丈夫です。……どこかでお会いしましたかしら?」


自分でも分からない。

初対面のはずなのに、皮膚の内側がざわつくような妙な既視感がある。


「いいえ。ですが、先日湖畔で……」


湖畔。


その単語が耳に届いた瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。


「偶然、近くを通りかかりまして。あまりに賑やかでしたので」

「賑やか。……ああ、あの動物王国状態のことですか」

「動物に好かれていらっしゃるのですね」


彼は笑った。

柔らかいが、鏡の表面のように底の読めない笑み。


「そんなつもりはないんですけど。……みんな、勝手に集まってきちゃって」

「ええ。勝手に」


繰り返されたその言葉に、わずかな引っかかりを覚える。


「偶然というのは、面白いものです。こうして街でも、またお会いできるのですから」


偶然。本当に、そうだろうか。


「……あなたは、どなた?」


問いかけると、彼は一歩だけ距離を詰めた。

護衛の騎士が鋭く身構える。


「ただの通りすがりですよ。ですが、もしまたお会いできたなら――その時は、きちんと名乗りましょう」

「また、って」

「ええ。偶然は、重なるものですから」


ぞくりと背筋を冷たいものが這い上がる。


その瞬間、どこからか突風が吹き抜けた。

視界を遮る人波。

瞬き一つする間に、青年の姿は掻き消えていた。


「……今の方は?」


侍女の不安げな問いに、私は曖昧に答える。


「知らない人。たぶん、ただの偶然よ」


そう言いながらも、胸の奥の違和感は消えてくれない。


その日の帰り道。


「今日は、誰かと話したか?」


何気ない調子で尋ねてきたのはルシアンだった。

いつの間に合流していたのか、神出鬼没ぶりがもはや怖い。


「え? ああ、街でちょっとだけ。偶然、いっしょになった人がいて」


ぴたり、と世界の空気が凍りついた。


「……偶然?」


声は穏やかだ。

だが、その瞳はまったく笑っていない。


「うん。湖畔にもいたらしいの。動物が集まってたのを見てたって言ってたわ」


ほんの一瞬。本当に呼吸を忘れるほどの一瞬だけ。

彼の瞳の奥で、何かが冷たく鋭く弾けたのを、私は確かに見た。


「そうか。……偶然か」


それだけなのに、背筋に嫌な予感が走り抜ける。


その夜。


月の光も届かない深い闇の中で、

一人の男が音もなく地面に押さえつけられていたことを、私は知らない。


「偶然、だと?」


低く、地の底から響くような声。

それは笑っているようにも聞こえたが、そこには一切の温度が存在しなかった。


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