第5話 【 反逆者の一手《リベリオン・トリガー》 】
地下へ向かうエレベーターは、静かすぎた。
階層表示が、地上から離れていく。
B3。
B7。
B12。
「まだ?」
私が呟くと、美佑が端末を操作しながら答える。
「正式な階層じゃない。途中から”存在しないフロア”に入る」
表示が消える。
エレベーターが、なおも降り続ける。
やがて、振動が止まった。
扉が開く。
そこは、病院でも研究室でもなかった。
白い廊下。
壁一面にガラス。
その向こうに、円形の個室が並んでいる。
中には――
少女たち。
年齢も姿もばらばらだ。
でも、
首元の薄い痕。
そして、無表情。
それだけは共通していた。
「……ここが、序列実験施設」
美佑の声が低い。
「適合体の――巫女の観測区間だ」
胸が重くなる。
「星七ちゃんはどこ」
「焦るな。奥にいる」
歩き出す。
足音が、やけに響く。
途中の個室で、少女がこちらを見た。
視線が合う。
瞬間、微かな共鳴が走る。
「……これ、全部クローンなの?」
「全部じゃないが、そうだ」
美佑は答える。
「選ばれた個体は、”個体”としての機能を失う」
胸が痛む。
廊下の最奥。
ひと際大きな部屋。
中央に、透明なカプセル。
中に浮かぶ少女。
――星七だ。
「……星七ちゃん」
「近寄るなよ――おい!」
私は美佑の注意を聞く前に、走り出した。
瞬間、施設内に警報が鳴り響く。
「バカ野郎……!!」
ぞろぞろと集まってくる武装集団。
その中心に、ヤツはいた。
「侵入者発見」
リエラ・エデュケイラだ。
「ようこそ、私のお家へ」
「リエラ…さん」
「あら、まだ私のことを”その名前”で呼んでくれるのね」
リエラは指先で、髪をいじりながらそう言う。
「おい、調律者もここにいるんだろ?」
「裏切り者に、教えるとでも?」
美佑は、拳に力を入れる。
「そうだな、じゃあ力ずくで聞いてやるよ!!」
そう言って、リエラに殴りかかる。
が、武装集団に遮られ、拳はリエラには届かなかった。
「私、乱暴な男は嫌いなのよねぇ。
その子、殺しちゃっていいわよん」
そう言うと、リエラは別の部屋に移動する。
「待って!」
「……何?私、暇じゃないんだけど」
「実験を…やめて!!」
そう言うと、リエラが足を止めた。
そして――
「ふふっ」
「ふふふっ」
「ふふふふっ」
「ふふふふふっ」
「「「あはははははははははははははははは!!」」」
リエラが笑った。
その笑い声が部屋内に反響する。
「そういえば、止めるとでも思った?
ばかねぇ、あなた。頭の中お花畑なのかしら」
リエラの目が細くなる。
「いいわ、そんなおバカちゃんにいいことを教えてあげる。
星七ちゃんはね、これから怪物になってもらうの。この力を使ってね!!」
そう言って、ポケットから一つの小瓶を出す。
中には、布の切れ端が入っていた。
「見覚えがあるでしょ?そう、これは沈黙のヴェールの切れ端。
完全体じゃなくても、その効力は失われない。そして――」
そう言って、パネルのボタンを押す。
床から、ひとつの箱が出てくる。
中には、一本の腕。
「これは聖遺物『聖女マグラディアの断腕』。
かつて罪人がマグラディアの力を欲しがり、彼女の腕を切り落としたものよ」
「……その腕が何なんですか」
「この腕は、中継器。
つまり、ヴェールに溜まった力を彼女に流す役目を持っているの。
その他にも、この腕自体にも力が備わっている。そんな最高な聖遺物なの」
そう言って、リエラは微笑む。
拳に力が入る。
ダメだ。感情に任せるな。
「あらぁ、今回は歌わないのかしら」
「……ぐっ」
「歌わないのなら……こっちから仕掛けるしかないわね!!」
そう言って、ヴェールの切れ端が入った小瓶を、腕の方に投げる。
瞬間、腕が光りだし、星七の入っているカプセルへと、その光が注がれる。
カプセルの中で藻掻き苦しむ星七。
徐々にその姿は、人ならざる者へと変わっていく。
「星七ちゃん!!」
リエラが腕を広げる。
「さあ、おいで。私の赤ちゃん――」
「させるかよ!」
背後からの声とともに、火柱が腕を焼き尽くす。
光は消え、カプセルへの力の供給も途絶える。
「きぃさぁまぁぁぁぁぁぁ!!裏切り者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声のする方へ振り向くと、そこには
赤と黒の装甲を身に纏う、美佑がそこにいた。
「俺を放っておいたのが、運のツキだ。
おい、詩織。今ならまだ助けられる」
そう言って、カプセルの方を指さす。
私はコクリと頷く。
助ける。
星七ちゃんを…助ける!!
息を吸う。
そして――私は歌った。




