第5話 【 裏切りの魔術師(笑) 】
男は、「裏切りの魔術師」と名乗った。
「で、話って何ですか。手短にお願いしますよ」
「別に今日出ていくわけじゃないんだろ?なら、そんなに急がなくてもいいじゃねぇか」
「裏切りの魔術師」さんは、そう言いながらベッドに寝転がる。
そこ、さっきまで私が寝てたんですけど。
ベッドを占領された私は、椅子に座ることにした。
「んじゃ、本題だ。お前、『調律者』って知ってるか?」
「ちゅーなー?何それ」
「オルフェウス機関、序列第2位。
冷静で冷徹。数値と結果にしか興味がないヤツだ。」
オルフェウス機関。
この名前を最近よく聞く。
「ねぇ、そのオルフェウス機関って何をしているの?」
私がそう聞くと、魔術師さんは驚いた顔をしていた。
なんだよ、聞いちゃだめだったのか?
「お、お前、そんなのも知らないであんな騒動起こしてたのか!?」
いや、そんなの知るわけないじゃん。
そもそも、あの騒動はオルフェウス機関を潰すためじゃなくて、星七ちゃんを助けるためで――
いや、結果的にはオルフェウス機関を潰すことにつながるのか。
「まぁ、いいや。じゃあ、調律者のことは知らないんだな?」
「うん、知らない。そもそも序列第2位ってことは、1位とかもいるってこと?」
「ああ、そうだ。
序列第2位が調律者。1位は指揮者。
3位が鎮魂者。
4位が賛歌者」
なんか、厨二臭い名前だな。
男の子が喜びそうな名前だ。
「話はそれだけだ。邪魔したな」
そう言って魔術師さんは、ベッドから降りる。
そろそろ魔術師さんって呼ぶのも疲れてきた。
「ねぇ、あなたの本名を教えてよ。「裏切りの魔術師」って呼びにくいから」
「あー、言わなきゃだめか?別にお前と仲良くするわけでもないのに」
「そうだけど……何かモヤモヤするじゃん、知らないままだと」
私がそう言うと、男は「はぁ…」と深いため息をついた。
何?そんなに恥ずかしい名前なのか?
「…ゆう」
「え?ゆう?」
「み・ゆ・う!天羽美佑だ!」
外見とは裏腹に可愛らしい名前じゃないか。
私は「ふふっ」っと笑ってしまった。
「お、おい!笑うんじゃねぇ!お前が教えろっつったから言ったんだ!
言っておくがふざけてねぇからな!」
美佑はそう言うと、ドアを強く開け、部屋を出て行ってしまった。
まぁ、もう出会うことはないだろう。
会っても、関わることはないだろうし。
――――――
なんてことを思っていたのが、つい2日前のことだ。
病院を退院し、街で買い物をしているとき、バッタリ会ってしまった。
たくさんの野菜が入った買い物かごを片手に、妹たちと歩いて帰っている美佑と。
「あ、ども」
「――!!こ、これは違くて!たまたまだから!たまたま親がいなかったからで!」
「優しいお兄ちゃんじゃん。この前とは大違いだなー」
「――!!」
美佑は私に怒鳴りつけようとするそぶりを見せる。
が、妹たちのいる前でそんな姿を見せるわけにはいけないんだろうな。
……もうちょっと遊んでから帰ろうかな。
私は堪忍袋の緒が切れた美佑に投げ飛ばされるまでの間、彼をからかい続けたのだった。




