第22話 【 世界を焼き払う終焉の炎《レーヴァテイン》 】
爆炎が弾けた。
美佑の拳が、一直線にカインの顔面へ叩き込まれる。
衝撃波。
空気そのものが割れた。
カインの身体が後方へ吹き飛ぶ。
壁を三枚突き破り、コンクリートが崩れ落ちた。
「……やっぱ、魔法より殴るほうが楽だな」
美佑が着地する。
焼けた足跡が床に残る。
足元から炎がじわりと広がった。
「どうせ、立てるんだろ?」
低く吐き捨てる。
煙の向こうで、瓦礫が動く。
次の瞬間――
無数の黒い槍が飛び出した。
「遅ぇ」
美佑は杖を振る。
炎の円環が展開される。
黒槍が触れた瞬間、音もなく蒸発した。
爆音。
轟煙。
空中から、カインが姿を現す。
無傷。
だが、笑ってはいなかった。
「……なるほど」
「強いじゃない、あなた」
美佑は答えない。
踏み込む。
次の瞬間、視界から消えた。
拳撃。
カインの腹部に直撃し、身体が折れる。
そのまま持ち上げる。
拳が、真紅に燃え上がる。
「俺の炎は――」
歯を食いしばる。
「こんなもんじゃねぇッ!!」
叩きつける。
床が爆ぜ、ビル全体が揺れた。
「うおらァ!!」
追撃。
炎を纏った打撃が嵐のように降り注ぐ。
「――終焉の業火ッ!!」
黒い粒子が飛び散る。
空間が焼ける。
巨大な“愛の結晶”が脈動を乱す。
詩織の頬を熱風が打った。
それほどの出力だった。
カインの瞳が細くなる。
「……おもしろぃ」
その瞬間。
無数の黒い腕が地面から噴き出した。
美佑の脚を掴む。
「ッ!」
炎が腕を焼く。
だが、離れない。
むしろ炎を呑み込み、さらに増殖する。
「……アタシの愛はねぇ」
カインが微笑む。
「誰にも切り離せないの」
腕が美佑ごと地面へ叩きつけられた。
「がッ……!」
骨が軋む。
肺から空気が吐き出される。
「ごちそうさま♡」
カインが唇に指を当てる。
「あなたの炎、おいしかったわぁ」
「正に“愛”そのもの」
「あなたも、誰かを愛してたのね」
ヒールの音が近づく。
コツ。
コツ。
「でも」
巨大な“愛の結晶”が脈動した。
その鼓動に合わせ、
美佑の装甲に亀裂が走る。
「あなたの愛は、それまで」
「――あの子と同じ」
パキッ。
翼の一部が崩れる。
炎が揺らぐ。
「そういえば」
カインが首を傾げる。
「あなた、あの子に似てるわねぇ」
「調律者のところの……」
「ああ、そうそう。レイちゃん」
美佑の瞳が細くなる。
「……おい」
「レイちゃんも可哀そうよねぇ」
「だってあんな姿にされちゃって」
「おいッ!!」
美佑が叫ぶ。
「お前……姉貴のこと、知ってるのか?」
「調律者の居場所、知ってるのか?」
カインがしゃがみ込む。
楽しそうに。
「知ってるもなにも」
「アタシたちの仲間だしぃ」
「レイちゃんをあの姿にする計画、アタシも賛成したんだけど?」
美佑の身体が震える。
「……なぁに?」
「恐怖で震えてるの?」
そのとき。
消えかけていた炎が、
再び灯る。
ゆっくりと。
だが確実に。
「……違ぇよ」
低い声。
「これは恐怖じゃねぇ」
美佑が立ち上がる。
炎が、さっきより深い色に変わる。
赤ではない。
黒に近い紅。
「怒りだ」
拳を握る。
炎が凝縮する。
空間が歪む。
「オメェは」
一歩踏み込む。
「俺を怒らせた」
拳が閃く。
一撃。
カインの腹部が沈む。
二撃。
顔面が歪む。
三撃。
再び腹部へ叩き込む。
衝撃が連鎖する。
その瞬間。
炎が爆発的に膨張した。
美佑の背後に、
巨大な炎の刃の輪郭が現れる。
それはまるで、
神話の剣。
世界を焼き払う終末の炎。
「――レーヴァテイン」
業火は、
進化した。
世界を焼き払う炎へと。




