第19話 【 気持ち悪い 】
夜空を咲くように、詩織は飛んだ。
音波の翼が一度震えるたびに、空気が弾ける。
視界の景色が線になって流れていく。
街の灯り。
ビルの群れ。
遠くに見える黒煙。
――戦場。
詩織の瞳が細くなる。
「……あそこか」
高度を落とす。
次の瞬間――
爆発音が響き、
黒い閃光が空を横切る。
詩織は反射的に身体をひねる。
轟音。
背後で空気が裂けた。
巨大な衝撃波が、夜空に花開く。
「……ッ!?」
視線を向ける。
そこにいたのは――
傷だらけの美佑と、
人型の”何か”。
だが、それは人ではない。
歪んだ装甲。
漏れ出る黒い粒子。
ときどき走るノイズ。
まるで――
「……映像、ね」
詩織は低く呟いた。
その瞬間、怪物の頭部がゆっくりとこちらを向く。
目が合った
次の瞬間――
音もなく消える。
「!」
背後。
詩織は振り向きざまに腕を振るう。
音波の刃が放たれ、空間が歪んだ。
怪物が弾き飛ばされる。
だが、次の瞬間には空中で体勢を立て直していた。
「効いてない……?」
詩織の背後で、空間が再び揺らぐ。
三体。
四体。
次々と黒い影が現れる。
「詩織ッ!」
美佑の声だ。
「そいつらは物理に弱いッ!殴れ!」
「わかったッ!」
詩織は怪物へ突進する。
拳を振り抜く。
直撃。
怪物は吹き飛び、ビルの壁面に叩きつけられる。
「当たったけど……なんか」
気持ちが悪い
確かに命中した。
だが、手応えがない。
まるで、空気を殴ったような感触。
「詩織ッ!中だ!中に行けッ!」
美佑がビルを指さす。
おそらく内部に、敵の本体がいるのだろう。
詩織は頷き、ビルの中へと踏み込んだ。
――――――
ビル内部は荒れていた。
倒れた棚。
砕けたガラス。
ねじ曲がった照明。
「……美空」
早く美空に会いたい
助け出したい。
その思いだけが、詩織の足を急かす。
だが、進んでも進んでも、
人の気配がない。
それどころか、先ほどの怪物の気配すら感じない。
静かすぎる。
心臓の音だけが、響いている。
「……誰もいないのか?」
小声で呟く。
そのとき、気づいた。
外の音が――消えている。
入口からは、そんなに離れていないはずだ。
なのに、
詩織は振り向いた。
が、そこにあったのは、
外へ続くはずの入口ではなく、
ただの壁だった。
「馬鹿ねぇ、あ・な・た」
どこからともなく、女の声が響く。
「こんな子が、賛歌者ちゃんを倒したのぉ?」
詩織の表情が強張る。
――オルフェウス機関。
「美空はどこッ!」
「まあまあ、そんなに慌てないの」
その声と同時に、
一つのライトがパッと点く。
照らされたそこには――
椅子に縛りつけられた女性。
「美空……!」
「そう、あなたの愛しい愛しい美空ちゃんでぇーす♡」




