第17話 【 オモイオモイ 】
「迷子になっているだけかもしれないでしょ?」
詩織は、そう言って微笑んだ。
その笑顔に、
政宗はわずかな違和感を覚える。
「神代さん」
「何ですか」
「落ち着いてください」
「落ち着いてますよ」
詩織は静かに答えた。
さっきまで泣いていたとは思えないほど
声は穏やかだった。
「だから」
詩織はゆっくり続ける。
「迎えに行くんです」
「迎えに?」
「えぇ」
少しだけ首を傾げる。
「だって――」
「美空は帰ってくるって言ったんですよ?」
政宗は言葉を失う。
「だから」
「だから、私が迎えに行かないと」
「私が迎えに行かなきゃ、ダメなんです」
「迎えに……迎えに行かなきゃ……」
詩織の瞳が、ゆっくり細くなる。
「帰れない理由があるんですよね?」
政宗は答えない。
代わりに、
夕日が静かに口を開いた。
「神代さん」
「はい?」
「もし仮にです。本当に事件だった場合――」
「あなたは関わらない方がいい」
「どうして?」
「危険だから――」
「大丈夫ですよ」
夕日が言い終わる前に、
詩織が言葉を遮った。
「大丈夫です」
「だって、一番危ないのは――」
一拍。
「相手の方ですから」
部屋の空気が、わずかに凍りつく。
政宗は詩織の目を見る。
そこには、
恐怖も、
焦りもない。
あるのは――
怒りと、憎悪。
「神代さん」
「はい?」
「何か、心当たりはないんですか?」
詩織は少し考え、首を振った。
「ありません」
「あるわけないじゃないですか」
そして、少し目を細める。
「それとも何ですか?」
「私に原因があるとでも?」
「いえ、そういうわけではなく」
政宗は、静かに言う。
「外部に、です。美空さんの身の回りで何か
変わったことなどはありませんでしたか?」
「モデル……」
詩織が呟く。
「モデルですか?」
「昨日、モデルと写真を撮ったって」
「すごく盛り上がってたんです」
「そうか……じゃあ、あのモデルが――」
「その線は薄いと思われます」
政宗が即座に止める。
「じゃあ誰なんですか」
「それがわかれば苦労はしません」
「そんなのわかってますッ!
わからないから、聞いてるんじゃないですか!」
詩織が叫ぶ。
「モデルが犯人じゃないならッ!誰が……誰が美空をッ!」
そのとき
モニターにノイズが走る。
『おいッ!いつまでやってんだ!』
『コッチは大変なんだよ!早く来いッ!』
先に現場へ向かった美佑の声だった。
「すいません、天羽さん」
「すぐに向かわせます」
『急いでくれよ!』
『もしかしたら――』
一瞬の沈黙
『もしかしたら、詩織が探してるやつがここにいるかもしんねぇ』
美佑が一枚のチェキを掲げる。
そこには――
『詩織』
という文字と、美空のサイン。
『多分、これ』
『美空ってやつが落としたていったんだろうな』
『お前に助けてもらいたくて』
美空……
ごめん
一瞬でも疑って
そうだよね
美空はそんなことしない。
美空にとって私は――
アイドルなんだもんね。
希望なんだもんね。
そうだ。
そうだよ。
なら――
今するべきことは一つしかな。
くよくよするな。
「神代さん」
政宗が声をかける。
「はい、準備はできてます」
詩織の顔には、
覚悟が浮かんでいた。
「わかりました、では――」
政宗は頷き、
小さな箱を一つ手渡す。
「これは?」
箱を開くと、
中にはロケットペンダントのような装置が入っていた。
「それは――」
「あなたの音装を大幅に強化してくれる装置です」
詩織がそれを見つめる。
「これを胸に当てて、歌を歌ってください」
「そうすれば」
政宗は静かに言った。
「美空さんを助け出せます」




