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戦唱魔導録アリアスコード  作者: 音律科学附属高等学校 音装部
第1章 【 愛《カミ》と双星《ツインスター》 】

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第16話 【 待ってるから 】

 美空が帰ってこない。


 電話をしても、繋がらない。

 

 事故?

 誘拐?


 それとも――


 「……他所(ほかのひと)のところ?」


 いや。

 そんなことはない。


 だって


 昨日言っていた。

 

 「明日も行くからね」


 って。


 きっと仕事が忙しいだけだ。

 

 そうだ

 

 ライブもあるって言ってたし。


 そうだよ


 きっとそう


 そうじゃなきゃ


 そうじゃないなら――


 そのとき


 スマホが鳴った。


 心臓が跳ねる。


 美空かもしれない。

 そう思って画面を見る。


 表示された名前は――


 伊賀 政宗


 「……はい、なんですか」


 「神代さん!緊急招集です!急いで本部に――」


 「今、それどころじゃないんで」


 言い終える前に、電話を切った。


 それどころじゃない。


 本当に、それどころじゃない。


 美空が。


 ”私だけ”の美空が、帰ってこない。


 「……どうして」


 「……なんで帰ってこないの?」


 「……おもかった?」


 「……わたしがスマホ見てたから?」


 「……ねぇ、どうしてなの」


 頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 不安


 恐怖


 疑い


 全部が混ざって、胸を締めつける。


 そのとき


 ガチャッ


 扉が開いた。


 美空だ


 そうだ


 絶対そうだ


 そうであってほしい


 そうであれ――


 「おい、詩織。何してんだ」


 入ってきたのは


 赤髪の男


 天羽美佑(あもうみゆう)だった。


 「お前が来ねぇからよ、俺がわざわざ呼びに来てやったんだぜ?」


 「……かえって」


 「は?」


 「帰って!」


 詩織が叫ぶ。


 「あなたじゃない!」


 「帰ってきてほしいのは、あなたじゃないの!」


 「……は?」


 「私が待ったのは……!」


 言葉が詰まる。


 涙が、溢れ出る。


 「美空なの……!」


 部屋に、沈黙が落ちる。


 「……あー……」


 美佑が困った顔をする。


 「お、おい……」


 完全に動揺していた。


 「と、とりあえず本部行くぞ」


 腕を掴まれる。


 その手は、妙に温かかった。


――――――


 本部


 すでに二人が待っていた。


 伊賀政宗


 そして――


 小暮夕日(こぐれゆうひ)


 「伊賀の兄ちゃん、連れてきたぜ」


 「ありがとうございます……」


 政宗が詩織の顔を見る。

 そして少し眉を寄せた。


 「……えっと」


 「泣かせたんですか?」


 「ち、ちげぇよ!!」


 美佑が慌てて否定する。


 「こいつが勝手に泣き出したんだって!」


 「ならいいんですが……」


政宗は詩織に近づく。


「神代さん、大丈夫ですか?」


反応がない。


詩織は、ただ一点を見つめている。


「……心ここにあらず、ですね」


夕日が小さく言う。


「何かあったんでしょうか」


「そういやぁ」


美佑が思い出したように言う。


「こいつ誰か待ってるって言ってたぜ」


「待ってる?」


政宗が聞き返す。


「あぁ。帰ってきてほしいのは、って」


政宗は少し考え込む。


「……なるほど」


「とにかくよ、俺だけでも行くぜ」


そう言って、美佑は本部を後にした。


詩織のことを気にしている様子だったが、


それでも任務を優先するらしい。


静かになった部屋で。


夕日がぽつりと言った。


「もしかして」


「彼氏さんとかですかね」


「彼氏……ですか」


「はい」


「帰ってこない、とか」


「連絡が取れない、とか」


「そういう感じに見えました」


政宗は少し考え込む。


「……確かに」


「それなら納得できますね」


そのときだった。


詩織が、ゆっくり口を開いた。


「……彼氏じゃない」


二人が振り向く。


「彼氏じゃない」


「彼女」


「……え?」


「私の」


詩織の目が、ゆっくり焦点を取り戻す。


その瞳は。


どこか、狂気を帯びていた。


「私だけの、アイドル」


部屋の空気が、少し冷える。


「……帰ってこない」


詩織が呟く。


「どうして」


「私のところに」


「帰ってこないの?」


その瞬間。


政宗は気づいた。


これは――


普通の恋人の心配じゃない。


もっと。


もっと重い。


もっと深い。


執着。


そして。


詩織は、静かに立ち上がった。


「……探しに行く」


「神代さん?」


「美空を」


詩織の目が、わずかに歪む。


「だって」


小さく笑う。


「迷子になってるだけかもしれないでしょ?」


その頃。


誰も知らない場所で。


春風美空は――


椅子に縛られていた。


「……詩織」


小さく呟く。


「早く来てよ」


そして。


ゆっくり笑った。


「待ってるから」

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