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戦唱魔導録アリアスコード  作者: 音律科学附属高等学校 音装部
第1章 【 愛《カミ》と双星《ツインスター》 】

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第14話 【 堕チタ、堕チタ 】

 それから。


 美空は、本当に泊りに来るようになった。


 最初は週に一回。


 次に三日に一回。


 そして気づけば――


 ほぼ毎日だった。


 「ただいまー」


 合鍵を渡した覚えはないのに、

 いつの間にか美空は自然に家へ入ってくるようになっていた。


 最初は驚いた。


 けれど今は


 「おかえりー」


 そう返すことが、当たり前になっていた。


 玄関に立つ桃色の髪。


 テレビで見るよりも、少し疲れた顔。


 それを見るたびに思う。


 ああ、この子は本当にアイドルなんだな、と。


 そして同時に


 ここでは、私だけの美空だ。


 そう思うと、少し嬉しかった。


 「きょうねー」


 美空は靴を脱ぎながら言う。


 「収録でさ、めっちゃ面白い芸人さんがいて」


 「うん」


 「あと、モデルさんとも写真撮ったんだ」

 

 「へぇ」


 私はキッチンでお茶を入れながら相槌を打つ。


 「それでね、マネージャーさんが――」


 そのとき


 ふと


 胸の奥に、妙な引っ掛かりを感じた。


 「……モデル?」


 「うん」


 美空はスマホを取り出した。


 「この人」


 画面に映っていたのは、背の高い女性モデルだった。


 肩を寄せ合って笑う二人。

 美空はすごく楽しそうだ。


 すごく


 すごく、楽しそうだ。


 胸の奥が、ざわつく。


 「……仲、いいの?」


 「いや?今日初めて会った!」


 美空は笑う。


 「……そっか」


 なぜだろう

 

 急に


 その写真が、少しだけ嫌になった。


 私はスマホを返した。


 「人気者だね」


 「えへへ」


 美空は照れたように笑う。


 「まあね!」


 「……」


 私は湯呑を差し出した。


 美空がそれを受け取る。


 指先が、少しだけ触れる。


 それだけで


 胸が少しだけ落ち着いた。


 ――何だろう、この感じ。


 その夜。


 美空がシャワーを浴びている間

 私は、何となくテーブルの上のスマホを見た。


 通知が光っている。


 SNS、ファンのコメント、マネージャー、スタッフ


 そして


 さっきのモデル。


 「今日はありがとう!」


 というメッセージ。


 私は


 気が付いたら、スマホを手に取っていた。


 少しだけ


 ほんの少しだけ


 胸がざわつく。


 この子は


 私の家に帰ってくる。


 ここで寝て


 ここで笑って


 ここで――


 私と過ごす。


 それなのに


 外では、こんなにたくさんの人と笑ってる。


 「……」


 私はスマホをそっと置いた。


 そして、気づいた。


 さっきから、頭の中に同じ言葉が浮かんでいる。


 「嫌だ」


 それは、ファンでもなく、芸能界でもなく


 ただ一つ


 美空が、他のだれかと楽しそうにしていること。


 それが、嫌だった。

 

 「詩織―?」


 シャワー室から声がする。


 「ドライヤーどこぉ?」


 「洗面台の下ー」


 「ありがとー!」


 ドアが開く。


 濡れた桃色の髪。


 少し眠そうな顔。


 美空はタオルで髪を拭きながら笑った。


 「なんか、詩織の家来ると落ち着く」


 「……そっか」


 「なんかさ」


 美空が、ぽつりとつぶやいた。


 「ここが一番、私でいられるんだよね」


 その言葉を聞いた瞬間


 胸の奥が、熱くなった。


 そうだ。


 この子は、ここに帰ってくる。


 どんなに人気が出ても。


 どんなにファンが増えても。


 ここに帰ってくる。


 私のところへ。


 だから


 私は、静かに思った。


 だったら


 外なんて、いらない。


 ファンも


 芸能界も


 友達も


 全部


 全部いらない。


 この子が、ここに帰ってきてくれるなら


 それだけでいい。


 「詩織、どした?」


 美空が私を見て言った。


 「なんでもないよ」


 私は笑って言う。


 本当に、何でもない。


 ただ


 少しだけ思っただけ。


 もし


 もしこの子が


 どこにも行かなくなったら。


 もし


 私のところにしか帰れなくなったら。


 それはきっと


 とても幸せなことなんだろうなって。


 他愛もない話を美空としながら、その日を終えた。




 その日を最後に


 美空は、私の目の前から姿を消した。

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