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戦唱魔導録アリアスコード  作者: 音律科学附属高等学校 音装部
第1章 【 愛《カミ》と双星《ツインスター》 】

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第13話 【 少しづつ、少しづつ 】

 「一緒に住もうよ」


 美空の言葉が、部屋の中に落ちた。


 冗談だと思った。

 

 いや、冗談であってほしかった。


 「……いやいやいや」


 私は思わず笑った。


 「何言ってるの。アイドルがそんなこと――」


 「本気だよ?」


 即答だった。


 美空の笑顔は、いつも画面の中で見るそれと同じだった。


 なのに


 その瞳がまっすぐすぎて怖い。


 逃げ場が、ない。


 「ほら」


 スマホを軽く振る。


 「住所も知ってるし」


 「それ普通に怖いから」


 「安心して」


 「安心できる要素どこ?」


 私は溜め息をつく。


 「そもそもさ」


 「私、普通の生活してるし」

  

 「アイドルと同居とか無理でしょ」


 「しかも、生活リズムが違うだろうし」


 美空は、少し考えるように視線を落とす。


 そして

 

 ぽつりと言った。


 「じゃあさ」


 「詩織の生活に合わせる」


 「……は?」


 「学校終わる時間知ってるし」

 

 「コンビニもよく行くところ知ってるし」


 「帰るルートもだいたいわかる」


 「やめて怖い」


 「えー」


 美空は頬を膨らませた。


 「ずっと探してたんだよ?」


 「それくらい普通でしょ」


 普通じゃない。


 絶対普通じゃない。


 だけど


 私は、なぜか怒れなかった。


 目の前にいるのは


 テレビの中のアイドルなんかじゃない。


 二年前


 あの街灯の下で歌っていた女の子だから。


 「……本当に」


 私は小さく笑った。


 「変わってないね、美空」


 「そうかなぁ」


 「うん、変わってないよ」


 「でも」


 美空は得意げに胸を張る。


 「今や人気アイドルですからね、私!」


 「いや、性格の話だから」


 「えー」


 しばらく沈黙が流れる。


 ふと、

 

 美空が、ぽつりとつぶやいた。


 「……今日さ」


 「ん?」


 「詩織に久々に会って思ったんだけど」


 「うん」


 「やっぱり好きだなって」


 「……」


 「詩織のこと」


 胸の奥が、少しだけざわついた。


 「だからさ」


 美空は笑う。


 「やっぱ一緒に住もう」


 「話が戻った」


 私は笑った。


 「無理だって」


 「なぁんでぇ~」


 「なんでも」


 「ほんとに?」


 「ほんとに」


 美空は、しばらく黙った。


 それから


 「……じゃあさ」


 少しだけ、寂しそうに言う。


 「たまに泊まりに行くのは?」


 「……は?」


 「週一でいいから」


 「いやいや」


 「三日に一回」


 「増えてるじゃん」


 「じゃあ、二日に一回でいいから!」


 「交渉下手かッ!」


 私は笑った。


 そして


 気づいてしまった。


 さっきまで感じていた


 怖さが、消えていることに。


 代わりにあるのは


 懐かしさと、少しの――


 安心感。


 「……まあ」


 私は椅子に寄り掛かった。


 「泊りぐらいならいいよ」


 「ほんと!?」


 「たまにね」


 その瞬間


 美空の顔が、ぱっと明るくなる。


 「そんな喜ぶもんか?」


 「だって」


 美空は嬉しそうに笑う。


 「好きな人の家だよ?」


 「……」


 「楽しみだなぁ」


 その笑顔を見て


 私は、少しだけ思った。


 ――まあ、いいか。


 二年前


 誰にも見向きされず歌っていた女の子。


 その子が


 今は、みんなに愛されている。


 その中で


 少しだけでも


 私を特別だと思ってくれてるなら。


 それは、うれしいことだ。


 でも


 このときの私はまだ知らなかった。


 この日を境に


 私の生活が


 私の人生が


 少しずつ変わりだすことを。


 最初は、週一回のお泊り。


 次に、三日。


 その次は――


 と、回数が増えていき


 そして、ある日。


 私が言うのだ。


 「美空……今日も、泊りに来る?」


 と。


 その言葉を聞いた美空は、にやりと口角を上げた。

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