表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦唱魔導録アリアスコード  作者: 音律科学附属高等学校 音装部
第1章 【 愛《カミ》と双星《ツインスター》 】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/28

第12話 【 偶像と虚像《カミシロシオリとハルカゼミソラ》 】

 共鳴市の中心から少し離れた街。

 玉響市(たまゆらし)


 私は今、その街に訪れていた。


 都市部ほど騒がしくはない。

 どこか田舎の空気を残した街並み。


 それでも、見上げれば高層ビルが並び、

 大型ビジョンには流行りのコスメや服の広告が流れている。


 やっぱり都会だなぁ、と思う。

 そのときだった。


 ビジョンに、見覚えのある桃色の髪が映る。


 ――いや。


 桃色の髪なんて、今どき珍しくない。

 そう思う人もいるだろう。


 でも。


 軽やかに揺れるロングヘア。

 自身に満ち溢れた笑顔。

 観客すべてを包み込むような、あの笑顔。


 見間違えるはずがない。


 画面下にテロップが流れる。


 春風美空 全国ツアー最終公演 決定!


 駅前には、人だかりができていた。

 かつてとは、全く違う意味で。


 私は小さくつぶやく。

 

 「……よかったね、美空」


 あの日から、二年。


 あの夜をきっかけに、美空は配信活動を始めた。

 

 ライブ動画が拡散され、

 少しづつだがファンも増えていき、

 やがて事務所の目に留まり――


 彼女は、夢だったアイドルになった。


 私は。


 最初のファンとして、ずっと応援していた。

 

 けれど。


 距離は、少しずつ遠くなっていった。


 ファンが増えるたびに。

 ステージが大きくなるたびに。

 

 ”私だけのハルカゼミソラ”が、

 ”みんなのハルカゼミソラ”になっていった。


 それがうれしくて。

 

 少しだけ、寂しかった。


――――――


 その日の夜。


 用事を終え、

 共鳴市(レゾナンスシティ)へ帰ろうとしていたときだった。


 人混みの中。


 帽子とマスク姿で歩く少女が歩いている。


 正体を隠しているつもりなのだろう。


 でも。

 私にはわかる、あれは。


 春風美空だ。


 「あ”ぁ”ぁ”ぁ”……疲れたぁぁぁ」


 夜風が頬を撫でる。


 ふと、彼女が足を止めた。


 「……あ」


 街灯の下。

 懐かしそうに周囲を見渡す。


 ――この匂い。

 

 ――この空気。


 「そういえばここ……」


 二年前と、同じ場所。


 あの日。


 ここにスピーカーを置いて、

 マイクを握って。


 彼女は歌っていた。


 誰にも見向きもされないまま。


 美空は小さく笑った。


 「……懐かしいな」


 声をかけようと思った。


 でも。


 忘れられてたら、という不安が私に押し寄せる。


 勇気が足りない。

 私には、その一歩が足りない。

 

 「……私にも、あったらいいのにな」


 「何が?」


 声がした。


 顔を上げると、目の前には――


 「……はるかぜ――」


 言いかけた瞬間。


 「えっ!?ミソラちゃんだ!」


 「写真撮ってもらお!」


 「サインください!」


 人々が一斉に美空へ群がる。


 「こーら!」


 美空は笑いながら言った。


 「プライベート中のアイドルに話しかけないの!」


 軽くあしらいながら、

 私の方を見る方

 

 「……久しぶり、詩織」


 「……うん」


 「とりあえず、場所変えよっか」


 次の瞬間


 美空は私の手を掴み、走り出した。


――――――


 「ふぅ……ここまで来れば大丈夫でしょ」


 案内されたのは、

 静かな個室料理店だった。


 落ち着いた照明。

 少しだけ大人な雰囲気。


 「ここね、マネージャーさんに教えてもらったんだー」


 有名人がお忍びで来る店。

 

 紹介がないと入れない高級店。


 席に座ると、美空が私を見つめる。


 「……で」


 単刀直入だった。


 「何が足りないの?お金?頭?」


 「あなたよりは頭はあるほうだと思うんだけど」


 「えぇ~、そうかなぁ」


 美空はクスッと笑う。


 耳元のピアスが、ライトを反射して光る。


 少し沈黙が流れる。


 そして


 美空は静かに言った。


 「私ね」


 「感謝してるんだ」


 「詩織があのとき、私を見つけてくれなかったらさ」


 「あのまま夢、諦めてた」


 優しい目だった。


 嘘はない。


 だからこそ――


 少し怖い。


 「だからさ」


 美空はバッグからスマホを取り出した。


 「ずっと探してたんだ」


 画面を操作する。


 「ライブの時も」


 「握手会の時も」


 指が止まる。


 「今日会えたのも、本当に奇跡だと思うの」


 「……美空?」


 美空が、ゆっくり笑う。


 「あのときから決めてたんだ」

 

 「あなただけの――詩織だけのアイドルになるって」


 スマホの画面をこちらに向ける。


 そこに書かれていたのは――


 私の家の住所。


 「だからさ」


 美空が、楽しそうに言った。


 「一緒に住もうよ」


 「いいよね?」


 「いいでしょ?」


 アイドルは。


 夢や希望を与える存在だ。


 偶像。


 だけど


 春風美空は違う。


 彼女はファンのために

 アイドルをやっていたわけじゃない。


 ただ


 私を見つけるために。


 私と一緒にいるために。


 アイドルになったのだ。


 彼女にとってのアイドルは、


 私だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ