第10話 【 アリアスコードへようこそ 】
「神代詩織さん、『アリアスコード』へようこそ」
そんなことを言われた帰路。
私は何が何だかわからないまま、伊賀政宗の車に乗っていた。
「すいません、現場からそのまま来たので少し散らかってます」
「……い、いえ」
助手席に散らばって置いてあった書類を、後部座席に移動させる。
シンと静まった車内。
とても気まずい。
「……えと、その伊賀……さん?」
「政宗でいいですよ」
「じゃ、じゃあ政宗さん。その、私たちは今、どこに向かっているんですか?」
「共鳴市の端っこ『アリオーゾ』です。そこに私たちの基地があります」
アリオーゾ――共鳴市の北端にある小さな都市。だが、多くの音楽関係者を生み出した都市ともいわれている。
よくテレビでやっていたが、実際に行ったことはない。
「アリオーゾは、とてもいい都市ですよ。自然豊かで空気もおいしい」
「はぁ」
正直どうでもよかった。
何故、私がそこに連れていかれているのか。それが気になって仕方がなかった。
「今、どうして私がそこに…と思いましたね?」
ドキッとした。
まるで心の中を読まれているようだ。
「ええ、心の中、読んでますよ。私、そういう能力持っているので」
本当に読まれていた。
これじゃあ、変なこと考えられないじゃないか。
「まあ、冗談ですけどね」
冗談なんかいッ!!
変な汗をかいたじゃないか、まったく。
「……緊張はほぐれましたか?」
「…まぁ、最初よりは」
「それはよかった。では、本題に」
そう言って、スマホを取り出す。
おいおい、ながら運転は違法だぜ?
「こちらを見てください」
スマホの手渡す政宗。
その画面には、ベッドの上で眠っている星七の姿があった。
「星七ちゃん!!なんで?病院に運ばれたんじゃ……」
「ええ、病院に運ばれましたよ。ただそこの病院、アリアスコードが運営している病院なんですよ」
そう言って、私の手からスマホを取る。
「別に星七さんを利用して、何かをするわけじゃありません。むしろ、それを妨げるために保護しています」
「保護……」
利用されるのを阻止……つまり、オルフェウス機関から守ってくれてるってことだ。
「星七さんには、特別な力が宿っています。おそらく、先の聖遺物のせいでしょう」
先の聖遺物――聖女マグラディアの断腕のことだろう。
「おそらく、その力が彼女に宿っている限り、オルフェウス機関は彼女を狙い続けるでしょう」
「どうにかできないんですか?」
「できないことはないんですが……」
歯切れの悪い言い方が少し気になる。
「何か、あるんですか?」
「いえ、その力を取り除く方法って言うのが――」
「あなたのその力、「聖人殺し」で星七さんを一度壊さないといけないんです」
「……それってつまり、星七ちゃんを」
殺す
ということになる。
「他に……ほかに何か方法はないんですか!?」
「ありません」
私の言葉に、政宗は首を横に振った。
「今現在は、さっき言った方法でしか力を取り除けません」
「そんな……」
せっかく「歌を武器にしない」と誓ったのに。
「歌は人を救うためにある」と言ったばかりなのに。
既に、それを守れそうにない。
時間をかければ、なんとかなるかもしれない。
でも、そんなのいつまでもってわけにはいかないだろう。
星七ちゃんも精神的に辛くなるだろう。
でも、私のこの力で星七ちゃんを殺したくない。
どうすれば……
「ですが、大丈夫です。あなたにそんなことはさせません。わたしたちで、星七さんを助けて見せます。だから」
「だから、あなたは守ってください。オルフェウス機関からわたしたちを。星七さんを」
「……わかりました。守ります。絶対に、アリアスコードを。星七ちゃんを、守って見せます!!」
私は誓った。
歌を武器にしないことを。そして――
星七ちゃんを必ず守り抜くと。




