第9話 【 たとえ神だろうと 】
『『……その姿ッ!!そうか、そうなのか、そうだったなッ!!』』
ヨハネの声が段々と大きくなっていく。
『『貴様が初代か!!』』
初代――第二の器が生まれる前の器。
つまり、この騒動の原因だ。
『『初代はあのとき消えたと思っていたが……まさか生き残っていたとはッ!!』』
ヨハネの感情が高ぶるのが、声で分かる。
「この力、本当は使いたくなかった。
この力は、誰かを傷つけるための力じゃないから。だから、ずっと封じていた」
私は5年前、この力で大切な人を傷つけた。
だからこそ、この力を――歌うことを封じた。
「でも、今は違うッ!!今は……大切な人を守るためにこの力をッ!!」
『『大切な人ォ?……あぁ、そこの使えないゴミのことか』』
「星七ちゃんはゴミなんかじゃないッ!!」
拳を力強く握る。
『『じゃあなんだというんだ。巫女の力もろくに残っていない。ましてや、人間ですらないこいつに、なんの価値があるというんだ』』
「確かに、星七ちゃんは人間じゃない。でも。だからこそ、人間になろうと。人間と対等であろうと頑張ってきたッ!!それを踏みにじるような奴は、たとえ神であろうと、私は許さないッ!!」
『『貴様、神を愚弄する気かッ!!』』
ヨハネの拳が詩織を襲う。
が、その拳も音となって跳ね返される。
『『くっ!!厄介なモノを……』』
「歌は武器なんかじゃない。歌は、みんなを救う――光だッ!!」
感情の籠った拳が、ヨハネの腹を直撃する。
『『がッ…!!貴様ぁぁぁぁ!!』』
「よしな、君じゃあ勝てない」
ヨハネの背後で、男性の声がした。
『『!?なぜ貴様がここにいるッ!』』
その男の姿を見たヨハネが動揺する。
「なぜって、上からの命令さ。第一位様からのね」
『『指揮者か……!』』
「その呼び名、彼が嫌うからやめときな」
そう言って、ヨハネの元へと近づく。
「ほら、気持ちを落ち着かせな」
男は、ヨハネにひとつの薬を手渡す。
それを飲んだヨハネの姿が、元の人間の姿へと変わっていく。
「ふんッ、じゃあ仕方ないね。この勝負、お預けってことだ」
男が空間に小さなゲートを作る。
その中に、ヨハネも入っていく。
「は?ちょっ、まてッ!!」
ゲートに向けて伸ばす腕。
しかし、間に合うはずもなく、ゲートは閉じてしまった。
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PM20:36
目を覚ました美佑とともに、施設の外へ。
ちゃんと星七ちゃんも連れ出して。
「……で、その男と賛歌者――ヨハネは、消えちまったと」
「うん、結局とどめさせなかった」
やりきれない感情に、どこかむしゃくしゃする。
「まぁでも、生きて生還できただけまだマシだ。
それに――」
美佑がおんぶしている星七の顔を見る。
「この子が無事なのも、お前のおかげだろ?」
そうだ、星七ちゃんを助けられたのだ。
これは、失敗じゃない。
成功への重要なステップなんだ。
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星七ちゃんを、別の病院へ送り届け、私は家への帰路を歩いていた。
今日の出来事――あのときの力を使ってしまったこと。
使ってしまったからには、もう後戻りはできない。
しっかりと受け止めよう。
もう、二度と誰も傷つけないように。
「……あの、神代詩織さんですか?」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、スーツを着た男性がそこに立っていた。
「そ…うですけど、何か?」
「私、こういうものでして……」
そう言って、名刺を出す。
「はぁ、どうも」
受け取った名刺には、『音魔装開発部 伊賀政宗』と書いてあった。
「おん……そう?」
「えぇ、あなたがその身に纏うアーマーの名前です」
「あれ、そんな名前ついてたんですか」
「えぇ。ただ、あなたのように歌を力に変えるアーマーはそう呼びますが、
逆に歌を力として使わない。魔術・能力を力と変えるアーマーを魔装と我々は呼んでいます」
じゃあ、美佑の纏っていたのは音装じゃなくて、魔装なのか。
……いや、どうでもいいんだけど。
「じゃなくて、私に何か用があったのでは?」
「あぁ、そうでした」
そう言って政宗は、鞄の中から一枚の紙を取り出す。
「神代詩織さん、『アリアスコード』へようこそ」




