第86話 調査報告
「よし、みんな揃ったな!」
ジペットの声で、俺の部屋の空気が引き締まった。
ベッド脇の小さなスペースに、俺たち五人が集まっている。
ここからが報告会。
俺は背筋を伸ばす。
「じゃあ、ししゃも。から」
ししゃも。は、淡々とした様子で続ける。
「すぐ終わるから。犯人から連絡はまだありません。以上です」
「よし、わかった!」
ジペットが即答する。
「じゃっ、じゃあ次は俺だ!」
俺は勢いだけで手を上げた。
「俺はししゃも。と一緒に犯人からの連絡を待っていた。でも、犯人からの連絡はなかったぜ。以上だ!」
「それ、いまししゃも。が言ったんだよ! 無駄な報告すんじゃねぇ!!」
「うぅ……」
俺の喉がひゅっと鳴る。
「まぁまぁ、落ち着いて」
間を切ったのはデジデジだった。
落ち着いた声で、静かに続ける。
「それじゃあ次は僕かな」
デジデジは背筋を正して、淡々と話し始めた。
「松川会の組長……僕の祖父に話を聞いてきた。結果だけ先に言うと、有力な情報は得られなかった」
それでも、その言葉の裏にある重さだけは伝わってくる。
あいつの“祖父”ってだけで、空気が冷える。
「まず、健人が監禁されていることを祖父に知っているか尋ねた。答えは……『さぁな』」
「はぁ!?」
ししゃも。が反射的に声を上げる。俺も同じ気持ちだ。
そんな、しらばっくれるみたいな――
でもデジデジは首を小さく振った。
「健人が監禁されてるって言っても、祖父は特に動揺……というか、顔色一つ変えなかった。非情な人間ではあるけど、何も知らなかったら何かしら反応はあると思うんだ」
「だからたぶん……あの感じだと祖父は健人が監禁されていることを知ってると思う」
「なるほどな」
ジペットが低く頷く。
「次に、ししゃも。殺害の依頼が真世教団からのものなのか、改めて確認した」
デジデジは言葉を選ぶように、一拍置いて続けた。
「答えはYES。具体的に言うと――『そう伝えたはずだが? 依頼者が誰であろうと関係ないだろ? さっさと殺せ』」
「たぬきジジィ!!!」
思わず俺の口から飛び出した。
デジデジは苦笑すらせず、淡々と続ける。
「でも正直、ここは本当かどうか疑わしい。僕的には祖父は嘘をついているか、何か隠している気がする」
「次は……ししゃも。を殺さなきゃいけない理由を聞いてみた」
「答えは『お前には関係ない』。これも何も聞き出せなかった」
「……あんまり目新しい情報が得られなくて、ごめん」
「いや」
ゼロがすぐに首を振った。
「組長が健人くんの監禁を把握していそうなことが、なんとなくわかっただけでも収穫だよ。ありがとう、デイジー」
デジデジは小さく頷いた。
……よかった。少なくとも、あいつが“無駄だった”って思い込む必要はない。
ゼロがちらっとジペットを見る。
「じゃあ次は僕……って言いたいところだけど、結構長い話になりそう。だからジペット、先にお願いしていい?」
「了解だぜ!」
ジペットは前に出て、指を鳴らすみたいに勢いをつけた。
「じゃあ俺からの報告だ。お前ら、耳の穴かっぽじってよく聞けよな!」
「まず、健人の捜索。捜索レベルを引き上げてもらって、警察たちに施設周辺を中心に探してもらってるが、居場所特定につながる情報はまだ得られていない」
俺は奥歯を噛む。
……やっぱり、簡単には見つからないか。
「だが、健人が失踪した日の施設付近の監視カメラを調べたところ、一人で歩いている健人の姿が見つかった」
「ほんと!?」
ししゃも。が身を乗り出す。
俺も息を止めた。
「あぁ。でも、次々と監視カメラを追ったら、地下鉄の駅に入っていった。そこから行方が分からなくなった」
「入っていった映像は分かったが、どこの駅で降りたのか不明だ。まだ調べ途中だが、もしかしたら追いきれないかもしれない」
「ICカードの乗車履歴からも調べようと思ったんだが、健人が普段使ってたICカードとは別のものを使ったみたいだ。履歴が残ってなかった」
「マジか……」
準備して出たってことか。
“自分の意思”で動いた可能性が、いっそう濃くなる。
ジペットは続けた。
「次に、ししゃも。に送られてきた健人の写真から居場所を特定できないか解析したが、これも不発だ」
「写真に窓とか外の景色が分かるものが何も映ってない。監禁されてる部屋の中のものも特徴的なものが写ってない。難航してる。たぶん難しい」
「最後に、健人のメールに犯人から連絡が来てないか調べたが……これも不発だ。怪しいものは何も届いてなかった」
「俺たちが知らないアドレスに連絡が来たのか、そもそもメール以外でコンタクトがあったのか……謎だな」
ジペットは腕を組む。
「俺からの報告は以上。これといって大きな収穫はなしだな」
デジデジの肩が少し落ちた。
でもジペットは、すぐに言った。
「気を落とすな! 健人の居場所は必ず突き止めてやる!」
「うん……ありがとう」
そして、ようやくゼロが息を整える。
「じゃあ最後は僕だね……」
ゼロの口調は落ち着いてるのに、どこか慎重だった。
「まず、すぐ終わる報告から。ししゃも。に送られてきたメールの送信者を調べたけど、やっぱり特定はできなかった」
「SMS認証もいらない海外の捨てアドレスサービスで作られたアドレスだったし、IPも多段階ルーティングや暗号化で秘匿されてて、特定は困難だった」
「やっぱりダメか……」
俺の声が勝手に沈む。
相手はプロだ。俺たちの動きなんて、最初から想定済みなんだろう。
でも、ゼロは次の言葉を続けた。
「でもUSBメモリの方は、無事にパスワードを解除できたよ。中身も無事だった」
ししゃも。が息を飲む。
「……それで……肝心な中身はどんな感じ?」
「うん……そうだね。とりあえず、自分でも見てみたいでしょ? ちょっと待ってて」




