第82話 碁石
沈黙を破るため、俺はわざと明るい声を出した。
「……なぁ! 夕飯、一緒に作らねぇか??」
「え?」
「今日、母ちゃんたち遅くなるから俺が飯作ることになってんだ」
俺は勢いのまま続けた。
「ジペットたち、腹すかせて帰ってくると思うしよ。旨い飯作って待ってようぜ!」
ししゃも。は少しだけ口元を緩めて、ふん、と息を吐いた。
「……しょうがない。二人で待ってても暇だし、やるかぁ~」
「お前は一言余計だよな!」
キッチンへ向かうと、ししゃも。は案外迷いなく動いた。
手際がいい――と言いたいところだが、包丁の持ち方だけちょっと危なっかしい。
「んお? お前、結構普通に料理できるんだな……。包丁、気をつけろよ」
「当然でしょ!? 料理は乙女のたしなみなんだが?」
ししゃも。は胸を張ってから、少しだけ視線を泳がせた。
「……基本、施設は食堂みたいな感じだから作る必要ないんだけど。月一でみんなでご飯作りましょうー、みたいなのがあって。それに参加してたから」
「へー。そんなのあるんだな」
「うん……あ」
ししゃも。が急に眉をひそめた。
「なんだ?」
「ムカつくこと思い出した」
「おい、物騒だな」
「前に施設で、バレンタインだからみんなでマカロン作ろうってのがあってさ。ししゃも。も作ったの」
「おぅ、いいじゃねぇか」
「で、できたからケンちゃんにプレゼントしたんだけどさぁ!」
ししゃも。の声が一段上がる。
「あいつ、ししゃも。のマカロン見て開口一番に『碁石』って言ってきたんだけど! あり得ないんだが!?」
俺は思わず、鍋の前で固まった。
「……真っ黒に焦がしたのか?」
「焦がしてないんだけど!!」
ししゃも。が包丁を振り上げそうになって、俺は慌てて止める。
「アレンジで、きな粉とかすりごまとか使っただけなの!」
「あー……(察し)」
俺は視線を逸らして、咳払いした。
「……なんていうか、その……ドンマイだな!」
「変な気を遣うな!!」
怒鳴りながらも、ししゃも。の口元が少しだけ上がってる。
……なんだよ、笑ってんじゃねぇか。
「でもさ」
俺は包丁で野菜を切りながら続ける。
「こういう風に誰かと一緒に飯作んの、楽しいよな」
「おい、無理やり話題変えるな!!」
……って言いながら、ししゃも。も、ちょっとだけ頷いた。
「……でもまぁ、そうだね。ししゃも。も料理するの、割と好きかも」
「そうか!」
俺は嬉しくなって、勢いで言った。
「じゃあ今度料理対決しようぜ! どっちが旨いか、健人に審査してもらおう」
ししゃも。が即答する。
「いいよ。まぁぽ前じゃ、ししゃも。の相手にならないと思うけど!」
「はぁ!?」
「で、コーナー名は『ししゃも。のおしゃべりクッキング』で決まりかなぁ」
「なんだよコーナー名って! つーか俺の要素どこだよ!?」
「あるわけないだろ。ししゃも。が主役。脇役は黙ってろ!」
「この野郎!! ぜってぇお前より旨いもん作ってやるからな!!」
……そうやって、くだらない言い合いをしてる間だけ。
俺たちは、普通の中高生みたいに笑えていた。




