第81話 ケンちゃん
話し合いが終わり、ジペットとゼロは、調査のため公安本部へ戻る。
デジデジは、組長である祖父に話を通すため松川の実家へ向かう。
みんな夜にはまたここへ戻ってくる――その予定だ。
残ったのは、俺とししゃも。だけ。
……あれ?
「ちょっと待ってくれ!」
口をついて出た。
「もしかして俺、なんもできることなくないか!?」
ししゃも。が机の回転イスをクルっとしてこちらを振り返る。目が冷たい。
「働けよこのクソニート!!!」
「だっ、だってよぉ!!」
俺は反射的に言い返してから、気づいて指をさした。
「……つーかお前は何やってるんだよ!?」
「え? ししゃも。?」
ししゃも。は腕を組んで考え込んでいるように見える。
「ししゃも。は~……んー……あっ。犯人たちからのメールの返事待ってるから! 超重大任務なんだが!?」
「いや待ってるだけじゃねぇか!」
「はぁ? 時には待つことも重要なんだが!? 果報は寝て待てって言うでしょ??」
「まぁそうだけどよぉ……!」
言い返しながら、俺はふと、思った。
……待つのが重要なら、俺にもできる。
「そうだな!待つのは大事だ!」
俺は胸を張って言った。
「だから俺も一緒に待つよ。お前、一人じゃ心細いだろう!?」
ししゃも。が、ものすごく嫌そうな顔をした。
「おい、仕事してる感出そうとしてくんじゃねぇよ。ししゃも。ひとりで十分だし!」
「まぁそういうなよ! 一緒に待とうぜ! な??」
ししゃも。は深くため息をついて、視線を逸らす。
「……はぁ。もうしょうがないんだから!」
やけくそみたいに言いながら、頬をぷいっと膨らませた。
「べ、別にししゃも。は一人で大丈夫だけど。燈真きゅんがどうしてもっていうなら、一緒に待たせてあげなくもないけど!」
「よしよし。そうしよう!!」
勝った。俺の勝ちだ。
……いや、何に勝ったんだこれ。
それでも、同じ部屋に誰かがいるだけで、胸の奥のざわつきが少しだけ落ち着く。
俺は、ししゃも。の近くに腰を下ろして、声の調子を落とした。
「……なぁ。健人のこと、なんか教えてくれよ」
「はぁ?? なに急に?」
ししゃも。がじろっと俺を見る。
「昨日の夜もちょっと話したじゃん」
「どうせ待ってるだけで暇なんだからいいだろ」
俺は肩をすくめた。
「他の話があったら聞きてぇんだよ」
ししゃも。はうーんと唸って、しばらく天井を見上げた。
「えー……なんかあるかなぁ~」
「昨日も言ったけど、結構あの子ぽけ~っとしてて、あんまり自分のこと話さなかったからなぁ……」
「結構長いこと一緒にいるんじゃないのか?」
「うーん……同じ施設で暮らしてる期間で言ったら十年ぐらいになるけど」
ししゃも。は指先で机をピアノみたいにトコトコ叩きながら続ける。
「中学生になるくらいまで、ほとんど接点なかったからなぁ。部屋替えで同室になってからって感じ。実質、二年ちょっとかな?」
「そうか……」
二年。
短いようで、長い時間だ。
「でも二年も一緒にいたら、何かあるだろ?」
「まぁ色々話してはいたけど……くだらない話だけだし」
ししゃも。は口を尖らせた。
「“助けるための情報”があるかって言われたら……何もないかなぁ?」
「最近、おかしい様子とかは?」
「うーん……特には……」
そう言いながら、ししゃも。の視線が一瞬だけ揺れた。
「あっ、でも……最近、学校から施設に帰ってくる時間が遅いことが多かったかも」
「そうなのか?」
「うん。最近っていうより……半年ぐらい前からかな。それまでは学校終わったらすぐ帰ってきてた気がする」
「半年……」
今回の件と関係あるのかどうか。
今の段階じゃ何とも言えない。けど、引っかかる。
「……今回の件と関係あるかはわかんねぇな」
「だねぇ~」
ししゃも。は画面を見つめたまま、ぽつりと零した。
「……ケンちゃん、大丈夫かな。ちゃんとまだ無事でいてくれてるよね??」
胸が、きゅっと縮む。
「……きっと大丈夫だ」
俺は自分に言い聞かせるみたいに言った。
「さっきデジデジも言ってたろ? 研究データがこっちにある以上、相手も迂闊には手を出せないはずだって」
ししゃも。は小さく頷いた。
「うん……そうだよね……」
重くて、冷たい沈黙が訪れる。




